+お正月

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日はお日柄もよく、桜桃お嬢さまはご学友と共にお出かけ中。

お上品な言葉遣いと振舞い、清楚な姿と優しい微笑み。

どこからどう見ても、彼女は生粋のお嬢さまのなかのお譲さまである。

 

 

今日は休日ということもあって、桜桃お嬢さまは、お嬢さま友人たちとお買い物。

付き人たちを外で待たせて、女性だけで楽しみましょうという友人たちの意見に従い、桜桃お嬢さまはデパートの中をゆったりと歩いていた。

 

 

「お嬢さま」として振舞っていると常に思うことだが、本当に世の中平和である。・・・偏った平和である。

ほのぼのと陽が当っている場所は平和に見えるのに、陽の当らない影の場所は物騒この上ない。それが、彼女たちの住む街の姿。

そして桜桃お嬢さまは、どちらの世界も知り尽くしている、珍しい存在。

 

 

 

一応、「お嬢さま」のネコを被っている間は、影の場所を知っていることは隠してはいるのだが。

そもそも、ネコを数え切れぬほど飼い慣らして被り込んでいることすら、内緒の内緒である。

・・・にも関わらず、その日その時、彼女の耳に信じられない声が聞こえてきたのだ。

 

 

 

 

「おー!!ネコお嬢じゃん!!」

 

 

 

ざぁぁぁっとお嬢さまの血の気が引く。

今、最も会いたくない人物に、最も呼ばれたくない呼び名で呼ばれた気がする・・・・・・。

 

 

 

 

「何シカトしてんだよ、ネコお嬢〜おぉい、ネコ被ったそこのオジョーサマ〜!!」

傍迷惑なくらいに大声でわめいているその人物は、桜桃お嬢さまがネコを被るのをやめていたときに出会った、暴走族『紅蓮』の族長その人であった。

いかにもさっきまでそこらへんでケンカや騒動起こして暴れてました、と言わんばかりの出立ちで、周りの人々が注目するほどのどでかい声で彼女を呼んでいる。

もはや、何も見えなかった聞こえなかったで無視を貫かない限り、どうすることもできない。

 

 

 

「いったいどなたを呼ばれているのでしょうね?」

「とても野蛮そうな方ですわね・・・・・・」

「ネコを被ったお嬢さまとおっしゃってますけど・・・・・・何のことでしょうね?」

「おほほほほほ・・・本当にそうですわね。さぁ、あの方は無視して先を急ぎましょう?」

首を傾げながらも、興味津津に族長を見る友人たちの背を押して、冷や汗だらだらの桜桃お嬢さまは先を促してその場から逃げようとした。

しかし、彼はさらにとんでもないことを言ってのけたのだ。

 

 

 

「コラ〜!!シカトすんじゃねぇ、ネコ被りの桜桃オジョーサマ〜!!!」

 

 

 

・・・名指し。

よりによって『猫被り』という単語と共に名指しで、彼は呼んできたのだ。

こうなると、どう言い繕うこともできない。言い逃れができない。

彼女が暴走族の族長と知り合いであることが、お嬢さま学校の友人たちに知れ渡ってしまうのだ。

苦労して被り続けたネコをあっさりとばらされてしまったのだ。

あの憎き男のせいで。

 

 

驚きの表情を浮かべる友人たちを横眼で見ながら、桜桃は怒りと絶望で目の前が暗くなっていくのを感じた・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・っていう、夢を見たんだよ、どうしてくれんだよ!!」

「・・・・・・・・・ふざけんな、知らねーよ、アンタの夢なんて」

「だって、あれが今年の私の初夢ってどういうこと?!トリ馬鹿頭に名指しで呼ばれて、必死に隠してたネコがばれるなんて、なんて縁起が悪い夢なの?!っていうか、余計なことをしやがってーーー!!!」

「はぁ?!ちょっと待てよ、なんでアンタの夢のことでオレが怒られるんだよ?!」

「うるさい、もとはといえば、あんたが私のことを『ネコお嬢』なんて呼ぶからだろ?!」

「ネコお嬢はネコお嬢だろうが。あんなにネコを被りまくっておいていまさらだろ」

「・・・そりゃそうだけど」

「そこは納得するのかよ」

 

 

そこは暴走族『紅蓮』のアジト。

今日も今日とて、桜桃お嬢さまはこちらに日参しているのである。

そして、先日見た、初夢の報告・・・・・・というより八つ当たりに来たのである。

 

 

 

「・・・でも、よく考えたら、このトリ馬鹿頭が、私の名前を覚えているわけないんだよな。バカだし」

「散々八つ当たりしておいて、さらになに失礼なこと言ってるんデスカ、ネコお嬢は」

「ん?だって覚えてる?私の名前」

「なんで今それを答えなきゃならねーんだ?」

「ほぉら、覚えてない」

「覚えてないとは言ってないだろ?!」

「すぐに答えられないってことは覚えてないってことだろ?」

「こんにゃろ・・・・・・」

 

 

 

その後もぎゃぁぎゃぁと続くふたりの口喧嘩。

もはや、このアジトの中ではおなじみの光景である。それを見守る『紅蓮』のメンバーたちも慣れたものだ。

「新年早々からよくやるなぁ、ふたりとも」

「それにしても、ネコお嬢ってば初夢でまでおれたちのことを見てくれるなんて、愛されてるじゃん?」

「・・・って本人に言ったら殺されるぜ?」

「だから今ここで言ってるんだって」

 

 

 

 

アジトの中でそんな会話も繰り広げられていたりして。

そんな中、里井くんの一言で、喧騒は一気におさまった。

「は〜い、みなさん、お雑煮ができあがりましたよ〜」

 

 

 

そんなこんなで、いつものように騒がしく新しい年が幕を開けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「お正月」をテーマに番外編を書こうとしたとき、浮かんだネタはいくつかありました。

・お年玉をせびる『紅蓮』メンバー

・羽子板でバトる族長とネコお嬢

・新年酒盛り

・ネコお嬢に尻を叩かれながら、大掃除を今更するメンバー

 

だけど、こうして「初夢」ネタにおさまりました。

というのも、上記のネタは別にこのシリーズでなくても、「あたしの恋人」という別シリーズでも同じようなノリで書けると思ったので。

このシリーズでしか書けないネタで書きたいな、と思い、こうして「初夢」ネタになりました。

 

そもそも大掃除とか、ネコお嬢だってやったことないに違いない(笑)

酒盛りだけは惜しかったかなぁとは思いますが。

なにも酒盛りは新年だけじゃないさ!(ニヤリ)

 

 

そんなわけで、ご挨拶が遅れましたが、あけましておめでとうございます。

本年も紫月共々、当サイトをよろしくお願いします。

 

 2011.1.1

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