+七夕
「へぇ、随分懐かしいことしてるじゃん」
お嬢様が、毎日のように日参している、暴走族『紅蓮』のアジトで見つけた代物。
それは、アジトの広間にどかんと大占領して飾られている、大きな笹。窓からやってくる風にゆれて、葉がさらさらと音を立てているのは実に風流だ。
・・・・・・場所が、こんなむさくるしいところでなければ。
「あんたたちが七夕を知っていたとはね〜」
「ネコお嬢、それっておれたちを何だと思ってるんスか・・・・・・」
「ん?脳なしケンカ馬鹿」
「ヒドイ・・・・・・」
今日は7月7日、七夕だ。
商店街でも民家の庭でも、どこでもかしこでも笹が飾られている。
笹に願い事を書いた短冊を飾り、織姫と彦星に祈る。
そんなロマンチックな発想が彼らにあったとは・・・・・・曲がりなりにも、この辺り一帯を締める、泣く子も黙る暴走族『紅蓮』のメンバーたちに・・・・・・。
「・・・・・・キモ・・・」
「ちょっとちょっと、ネコお嬢、なんかあらぬ方向へ想像してませんカ?」
「おれたちだって七夕に願いことくらいするんだぜ〜?」
とことん『紅蓮』メンバーをこけ落とすこのお嬢様、暴走族のアジトに入り浸っているものの、割と名の知れた家のお嬢様だったりする。
けれど、実は相当の猫被り。故についたあだ名は『ネコお嬢』。
もはや本人も否定することを諦めたようである。
なんやかんやと、『紅蓮』メンバーは気取らぬお嬢様を気に入っているし、お嬢様も気遣わなくていい彼らの傍にいることが居心地よくなっているのだ。
だからこそ、こうして普段は被っている大猫を一匹残らず振り捨ててのびのびとしていられるのだから。
「で?あんたたちはナニをお願いしたわけ?」
ニヤニヤしながら、お嬢様が笹に飾られた短冊を読もうとした瞬間、『紅蓮』メンバーが大慌てで彼女を止めにかかった。
「だ、だめ、ネコお嬢、ソレは読んじゃダメ!!」
「これは、おれたちの純粋なるココロなんだ〜!!」
「ネコお嬢が読むのはソレじゃない〜!!」
ドタバタとさながら小学生のように全力で彼女を止めにかかってくる。
ここまで必死に止められると、むしろ見たくなるのがヒトというもの。
仮にも曲がりなりにも、『お嬢様』という立場であるにもかかわらず、まるで悪魔のような薄笑いを浮かべ、彼女は意地悪く言った。
「へ〜?そんな大事なお願いなわけ?それを必死に隠すっていうのは、なにかやましいことでもあるわけ?それをあの短気なトリ頭が知ったら、うるさいだろうねぇ?」
彼女の言う『トリ頭』とは、この暴走族『紅蓮』を束ねる族長のことである。
最強の名を持つ暴走族『紅蓮』の功績の大部分が、彼のその強さゆえによるものであるのは、周知の事実である。
そして、怒らせたらどうにもこうにも手がつけられないことも・・・・・・。
お嬢様による最恐の脅しに、『紅蓮』メンバーはたじろぐものの、それでも頑として笹から離れようとはしない。
しかも、なんだか意味不明なことまで言い出し始めた。
「ネコお嬢に見てほしい笹はこれじゃないんだ〜!!」
「・・・・・・は?私に見てほしい笹?」
「・・・・・・そう。ネコお嬢専用の笹はコレ」
そう言って彼らがバサッっと差し出してきたのは、アジトに飾ってあるものよりも少し小ぶりの笹。
だが、短冊は所狭しとぎゅうぎゅうに飾ってある。
・・・・・・というか。
「・・・・・・なんだよ、私専用の笹って・・・・・・」
とりあえず渡された笹にぶら下がっている短冊を、いくつか摘まんで眺めてみる。
すると、そこに書いてあったのは・・・・・・
『高級な料理が食いたい』
『新しいバイクが欲しい』
『豪華温泉旅行に行きたい』
etc etc ・・・・・・
「・・・・・・ナニ、これ?」
「だから、ネコお嬢専用の笹だって。それ、ネコお嬢へのお願いゴト♪」
全くもって悪気ゼロの状態で、ニコニコと無邪気に笑いながら彼らは彼女にそう言い切る。
子供が親のお手伝いをして、そのお駄賃をねだるように。
が。
コレは、違う。
「・・・・・・七夕の短冊っていうのは、個人に向ける願い事じゃね〜だろ〜が!!なんなんだ、こんな個人的な頼みごとばっかり!!」
「え〜!!だって、あっちの短冊は、織姫&彦星用で、そっちはネコお嬢用なんだぜ?ホラ、願い事ってお願いする相手によって内容違うじゃん?」
「自信満々な顔でふざけたこと言ってるんじゃね〜!!!」
ばしっと、ネコお嬢は彼女専用と渡された、罪のない笹を床に叩きつける。
突然怒り出した彼女の反応に、『紅蓮』メンバーは目を白黒させる。
「え〜?!?!?!なんで、ネコお嬢、怒るんだよ〜!?」
「おれたちは純粋にお願い事を書いただけなのに〜!!」
「使い方間違えてるんだよ、大馬鹿共〜!!!」
お嬢様の一喝が飛び交う最中、ちょうどタイミングよく買い出しから戻ってきた里井くんは、族長の部屋の扉に寄りかけてある笹を見つけた。
この笹が、『紅蓮』メンバーによる、『族長専用の笹』である事実を族長が知り、お嬢様に負けず劣らずの勢いで彼らを追い回して怒るのは、数十分後の出来事だった。
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久しぶりの更新です。
しかもフライング更新です。
本当は「七夕」ネタは全然予定していなかったのですが、突然思いついてしまったので(笑)
書けば書くほど、『紅蓮』メンバーは愛すべき奴らですね(笑)バカさ加減が(笑)
今回は族長も里井くんも名前だけの登場だったので、次回はふたりも出せたらいいな、と思います☆
2011.7.6