「へぇ、おっもしれ〜もん見せてもらったなぁ〜」
「・・・見せモンじゃねーぞ?黙って見てたんなら、見学料もらおうか」
「ケチケチしたこと言うなよ、お嬢様のくせに」
「それとこれとは関係ないだろうが」
「っていうか、口がわりぃな、お嬢様のくせに」
「・・・ほっとけ」
1、縁は異なもの、味なもの
それは、ほんの偶然と気まぐれ。
彼はめったに散歩なんぞしないのだが、その日はなんとなくそういう気分だったので、ぷらぷらと町中を闊歩していた。
相変わらずごちゃごちゃした街だね〜なんて思いながら。
いつもは金魚のフンみたいに自分にくっついてくる子分もいない。
ま、来るなと追っ払ったのだから、いるはずもない。
やっぱりいつまでも歩くのも面倒だし、暇そうな子分でも呼びだして迎えに呼ぼうかと携帯を取り出したそのとき、視界の端で馴染みの光景が目に入った。
・・・彼にとって馴染みがあるだけで、一般人には馴染みがないような光景。
いかにもガラと頭の悪そうな連中が、少女を裏路地に連れ込んで行ったのが見えたのだ。
ちらっと見えたその少女の制服は、この地域では有名なお嬢様学校SG女学院のもの。
お嬢様相手にあの連中が求めるのは、金か体か。
下手すりゃ両方かも。
いつもだったら彼はそれでも見て見ぬふりをしただろう。
別にあの連中が怖いからとかじゃない。
あんなの怖いとか思う方がどうかしてる。
あれらに関わるのが面倒臭い、それだけだ。
あんな馬鹿共に目をつけられてしまったあのお嬢様にはかわいそうだが、それが彼女の運命。
南無阿弥陀仏。
そんな風に、いつもなら思っただろう。
なのに、それなのに、今日は違った。
気まぐれに、足がそちらに向かった。
お嬢様が連れ込まれた場所に。
助けるために?さぁ、わからない。
でも、連中がいるところまで行って、何もしないってわけにもいかないだろうし。
あぁ、面倒臭せぇ、なんでオレは走ってるんだ?
それでも、なぜか彼は走った。
何かに惹きつけられるように、見知らぬお嬢様の後を追いかけて。
そして、その先に見たものは。
「おぉ、圧巻」
しかし、彼の呟きは彼の耳にすら届かない。
誰も通らない、見ていない、裏路地。
そこで繰り広げられていたのは・・・・・・乱闘。
しかも、ひとりの少女 VS ガラと頭の悪そうな連中だ。
どうなるものかと、好奇心で見守っていると、予想通り頭の悪い連中が何の連携もなく襲いかかってくるのを、彼女がひとりで、気持ちがいいくらいにばったばったと倒していく。
空手と合気道が混ざっているような、そんな不思議なフォームで。
そして彼が見守る・・・いや、見学している中で、少女の独走乱闘は終了した。
彼女よりも体格のいい連中全員を地面に叩き伏せて。
思わず口笛を吹いた彼の方に、彼女は鋭い視線をよこしてきた。
さすがに乱闘のあとということもあって、お嬢様学校の麗しい制服が汚れてしまっている。
「へぇ、おっもしれ〜もん見せてもらったなぁ〜」
「・・・見せモンじゃねーぞ?黙って見てたんなら、見学料もらおうか」
「ケチケチしたこと言うなよ、お嬢様のくせに」
「それとこれとは関係ないだろうが」
「っていうか、口がわりぃな、お嬢様のくせに」
「・・・ほっとけ」
ふぅっとため息をついて、彼女は制服の埃を叩き落とす。
「なぁ、あのお嬢様学校で、アンタ、その口調でいいわけ?」
「は?あんたに関係ないだろ?」
「おう、関係ないとも。ただの好奇心」
「・・・・・・ちゃんとお嬢様らしい口調して過ごしてるさ」
「ほ〜じゃぁ、ネコ被ってるわけだ」
けらけらと笑う彼に、彼女は再び鋭い視線を送ってくる。しかし先ほどのような殺気の籠ったものではなく、ただ睨みつけているだけだ。
「うるせぇな、なんなんだよ、あんたは!!」
「あ、オレ?オレは〜ただの通りすがり?」
「・・・その割には、そこらへんに寝っ転がってる連中よりデキそうな感じするけど?」
「あぁ、こいつらよりはな」
ニッっと笑う彼に毒気を抜かれたか、彼女はげんなりした様子で、最後にもう一度制服をはたいた。
「もうどうでもいいや。そこどけ。私は帰る」
「どく前に教えてくれよ」
「何を?」
「アンタの名前」
「・・・・・・なんで?」
「好奇心」
なんでこんなやつに名前を教えなくちゃいけないんだ。
そりゃもう、彼女の顔全体がそう言ってる。
同時に、面倒臭いから早くここから立ち去りたいとも。
あくまでその場をどく気のない彼の様子を悟ったか、彼女はとうとうため息交じりに名乗った。
「一ノ宮 桜桃」
「ゆすら?変わった名前だな」
「・・・いいからどけよ」
「ほいほい、約束だしな。じゃぁな、ネコお嬢様」
「うるせー」
去り際もカッコよく振り返らずに彼女は颯爽と歩いていく。
でも歩き方は無意識か、やはり姿勢がいいのはお嬢様所以か。
「おもしれ〜もん見ちゃったな〜」
そもそもお嬢様なんて生き物に出会うことはもうないだろうけど。
今日はなかなかおもしろいものが見れた。
二度と会うこともないだろうけれど、彼はなんとなく彼女の名前を聞いてしまった。
・・・もう忘れたけど。
それでも上機嫌な彼は、鼻歌を歌いながら散歩の続きをした。
それから随分後に、彼の子分、里井くんは言う。
「彼と彼女が出会ったのは、偶然じゃなくて必然だったと思います」と。
しかし、数秒後には小さな声で言い加えた。
「・・・・・・できれば、違う形で出会ってほしかったです・・・・・・」と。
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そんなわけで、始めてしまいました、意味もないコメディ(笑)
もはや、ラブコメにすら分類できるのか、という(笑)
ネタが降れば書こうかと思います的なゆる〜い連載シリーズです。
それでも、みなさんの感想等(ネタでもいいです(笑))いただければ、書かなければ、と必死になるかと思われます(汗)
1話はただの出会い。
この出会いの話を書きたくてシリーズを始めてしまったといっても過言ではない(笑)
2010.6.20