「・・・・・・ネコお嬢、コレはいったどんなギャグなわけだ?」

「は?何言ってんだよ。あんたが言いだしたんだろ?」

「・・・あー・・・たしかに言ったさ、言ったけどな、これはナイだろ?」

「なんでだよ。ちゃんと電話でも確認したろ、『アジトのメンバー全員でやるのか』って」

「・・・そういう意味の確認だったのかよ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

10、画餅に帰す

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての発端は、アジトで呟いた・・・というか、ぼやいた、族長の一言。

 

 

「・・・あちぃし、スイカ食いてぇし、暴れたいよな・・・・・・」

 

 

そばにいた『紅蓮』のメンバーたちは、互いにアイコンタクトで発言権を押し付け合った。そして、とうとう、それを押しつけられた下っ端『紅蓮』メンバーのひとりが、族長に尋ねた。

 

 

「・・・それはつまり、スイカ割りをご希望されてますカ・・・?」

「あぁ?!他にオレ様のこの3つの欲望を満たすものがあるのかよ?!」

「あ、ありません・・・・・・!!」

「ってことは族長、スイカ割りっすね?!用意していいんですね?!」

「祭りですね?!スイカ祭りでいいんですね?!」

「おー、好きにしやがれ。さっさと用意しろ」

「アイサー!!」

 

 

 

 

ひゃっほー、と大喜びで散っていくメンバーたち。

恐る恐る族長のご機嫌を窺っていた彼らと同一人物とは思えぬほどの浮かれようである。

彼らは所詮、楽しく騒げればいいのだ。

 

 

 

 

 

「楽しい企画を思いつかれましたね」

「・・・うるせーよ」

くすくすと笑いながら族長に飲み物を手渡したのは里井くん。その飲み物を口に付けながら、族長は忌々しそうに呟く。

「仕方ねーだろ。ここ最近喧嘩といえば、姿の見えない連中を追っかけるものばっかりで、アイツらだって消化不良が続いてるんだ。ここらで騒がせなきゃうるせーだろ?」

「さすが、彼らのリーダーだけありますね。今のうちに統率力をつけておくことは大事ですよ」

「・・・・・・えっらそーに」

「そんなことありませんよ」

ふてくされる族長と、にっこりと笑い返す里井くん。

この不思議な構図を目にする者が誰ひとりとしていなかったのは、惜しかったのかもしれない。

 

 

 

 

やがて、族長は携帯を取り出し、何やらどこかに電話をかけ始めた。

「族長?どちらにお電話を?」

「あぁ?スイカの調達だよ、調達」

「・・・・・・スイカの注文でも?」

「おー。タダでスイカを持ってきてもらおうぜ?」

なんとな〜く族長の楽しそうな言い方に、嫌な予感を拭えない里井くん。

その予感が幸か不幸か、はずれていなかったのが判明したのは数秒後。

 

 

 

 

「あ、ネコお嬢?オレオレ」

 

 

 

 

もはやすたれてきたオレオレ詐欺のごとく、名乗らず話を進める族長。

・・・そういえば名乗ったところで、彼女は彼の名を知っているのだろうか。

 

 

 

 

「あぁ?オレ様の声だけで誰かわかれよ。・・・まぁ、いいや、ネコお嬢、アンタが未経験なことをやらせてやるよ」

おそらく電話の向こうで彼女から文句のひとつでも言われたのだろう。しかし、族長はそんなものは気にせずスルーして、さっさと用件に入ることにしたらしい。

しかも、絶対に上から目線の態度は崩さずに。

 

 

 

「いーから、文句垂れずに来いって。あぁ?聞こえねーな。あー、へーきへーき、里井を迎えにやらすから」

・・・また勝手に里井くんのお迎えを決めている族長。もう文句も言う気力もない里井くんが、腰を上げて迎えの準備をしようとしたら、意外な展開になってきた。

 

 

 

「あ?迎えはいらない?なんだよ、アジトにちゃんと来るんだろうな?・・・あぁ、なるほどな。あー、だったらなおさらちょうどいいや。ネコお嬢、未経験なコトやらしてやるから、スイカを用意してこい」

 

 

 

「はぁ?!」と聞き返す彼女の声が聞こえそうだ。

もはや脈略というものが皆無な族長の注文に、さぞや彼女も頭を抱えて苦悶しているに違いない。

 

 

 

「スイカ割りだよ、スイカ割り。やったことないだろ?で、オレたちもスイカ割りするスイカがないわけ。で、ネコお嬢にスイカを持ってきてもらおうと思ってな。・・・あ?あーそうだよ、アジトにいる奴ら全員でやるけど?それがどうした・・・・・・って、なんだよ、切りやがった」

チッと舌打ちと共に族長は携帯の通話ボタンを切る。

「お嬢サマはなんと?」

「あぁ、迎えはいらねーって。ちょうど車で移動してたとこみたいだぜ?ネコお嬢の本性を知ってる使用人と一緒に来るってよ」

「・・・スイカを持って・・・ですか?」

「おぅ。これでタダでスイカ割りできるな!!」

「・・・またそんなセコイことを・・・・・・。あなたなら用意できるじゃないですか」

「バカ言うな。『オレ様が』できるわけねーだろ」

ふんぞり返って威張る族長に、里井くんはため息ひとつ。

・・・・・・そもそも威張れることでもない気がするが。

 

 

 

 

 

 

 

 

その数十分後、『紅蓮』の族長とアジトのメンバーが目にしたものは。

「・・・・・・ネコお嬢、コレはいったどんなギャグなわけだ?」

「は?何言ってんだよ。あんたが言いだしたんだろ?」

「・・・あー・・・たしかに言ったさ、言ったけどな、これはナイだろ?」

「なんでだよ。ちゃんと電話でも確認したろ、『アジトのメンバー全員でやるのか』って」

「・・・そういう意味の確認だったのかよ・・・・・・」

彼らが目にした、ネコお嬢がアジトに持ってきたもの。

それは、どう目で数えても、20は越えた大量のスイカ・・・・・・。

 

 

 

 

「なんだよ?人数分用意したんだけど?んだからさっさとコレを中に運べ。まだ車の中にあるんだから」

「まだあるのか?!コレ以上?!」

「あったりまえ。だってメンバーの人数知らないし。足りなかったら困るだろ?里井、まだ車にスイカあるから持ってこい」

「あ、はい」

「・・・・・・ネコお嬢・・・・・・スイカ割りのスイカは人数分いらねーんだよ・・・・・・」

「は?なんでだよ?!そしたらスイカ割りできねーやつがいるだろ?!」

「フツーに考えろよ、ネコお嬢。一度にこんなにスイカ食えねーだろーが!!」

「う・・・・・・そ、それは考えたけど・・・・・・てか!!あんたに『フツー』とか説かれたくないし!!こら、里井、ぼさっとしてないで早く行け!!そこで突っ立てるおまえらもさっさとこのスイカ運べよ!!」

「あ、こら、勝手に命令するなっての」

呆れる族長とバツが悪そうなお嬢サマを取り残し、里井くんは彼女の車に向かう。

 

 

 

 

・・・どうやらまだまだ用意されているらしいスイカを受け取りに。

まさか、人数分のスイカが用意されてくるとは、さすがの族長も考えなかったに違いない。

あの族長があれほど表情を露わにして慌てて呆れる姿も久しぶりに見た気がする。

 

 

 

くすくすと笑いながら里井くんが車のそばまで駆け寄ると、そこにはひとりの男が姿勢よく立っていた。

おそらく、彼が族長の言っていた、『ネコお嬢の本性を知っている使用人』なのだろう・・・・・・。

 

 

 

 

「あぁ、あなたが里井さんですか?」

「は、はい」

ピリリとした気配。

なんというか、一瞬で空気が締まった。

思いもよらぬ緊張感と気配に、里井くんは自然と姿勢を正してしまう。

 

 

こ、この人、デキる・・・・・・・・・。

 

 

 

「わたしは桜桃お嬢様のお目付け役をしております、松田と申します」

「あ、どうも・・・・・・」

穏やかな表情と口調で挨拶をされても、なぜか威圧されているかのような気配に、里井くんはただ恐縮してしまう。

「いつもお嬢様がお世話になっております。こちらの責任者の方とご挨拶ができれば、と思ったのですが・・・・・・」

「えぇっと・・・それは今、難しいのではないかと・・・・・・」

 

 

 

 

今もまだ、ぎゃぁぎゃぁと入口で言い合っているお嬢サマと族長の声が聞こえている今の状態では・・・・・・。

それをすぐに察したのか、松田という男は薄く笑うと、里井くんに一礼した。

 

 

 

「どうやらそのようですね。また改めます。では、本日はわたしはこれで失礼いたします。お嬢様にもスイカを届けたら家に戻るように仰せつかっておりますので」

「あ、はい、ありがとう、ございました。あの、お嬢サマは、いつものようにお送りしますので」

「えぇ、よろしくお願いします。それでは」

軽く会釈だけして、松田は車に乗り込んでそのまま走り去ってしまった。

その場に残されたのは、突然の出会いに茫然としている里井くんと、道路に置き去りにされた、どう見ても彼一人では運べない、大量のスイカだけ。

 

 

 

 

・・・いったい、これだけのスイカをどうやって処理するんだろう・・・・・・。

 

 

 

完全に思考回路がショートした里井くんが思ったことは、それだけだった。

 

 

 

 

 

その後、『紅蓮』メンバーもびっくりな大量のスイカをアジトに入れ込み始まったスイカ割り。

それは、もはや見境なくスイカを叩き割るかのような、ヤケクソなスイカ割りとなった。

加え、終盤にはあまりのスイカの量にキレた族長が、再びネコお嬢に文句を垂れ、それにキレた彼女が彼に喧嘩をふっかけ、スイカを投げ合う壮絶なバトルが繰り広げられた。

 

 

 

 

 

・・・食べ物を粗末にしてはいけません。

 

 

 

里井くんを含め、砕け割れたスイカを『処理』している見学チームの『紅蓮』メンバーの心の声は、もはや熱血バトル中のふたりと、その傍らで健気にスイカ割りを続けている『紅蓮』メンバーには届いていないのであった。

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++++++++++++++++++++

「・・・限度ってものを知らないのか、あんたは」

「はぁ?!それはコッチのセリフですけど?もともとはアンタが原因だろ、ネコお嬢」

「なんでだよ、あんたが言いだしっぺだろ?!」

「そうだとも。オレ様がやりたくてやったんだ。ネコお嬢に文句言われる筋合いはねーな」

「それにしたって、見境なさすぎだろ。・・・てか、あいつらも」

「そりゃこんな状態だったらなぁ。まったく、ネコお嬢がいくら未経験だからって、限度があるよなぁ、フツーはここまでしないぜ、お嬢サマ?」

「・・・再三言うが、あんたに『普通』とか言われたくないんだけど?」

 

 

じつは、↑これが、いつもの冒頭の会話文になるものでした(笑)

つまり、予定では、ちゃんとスイカ割のオチもあったんですけど、意外にそこにいきつくまでにページ数が来てしまったので(笑)

 

ま、要するに、たくさんのスイカを、『紅蓮』のメンバーはやけくそに割って行ったのでしょう!!

そして、その大量のスイカを食べたせいで、『紅蓮』のメンバーは腹痛に悩まされたのでしょう!!

んでもって、族長とネコお嬢はケロっとしてるんだ(笑)そうに違いない(笑)

 

 2010.10.6

 

 

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