「・・・・・・ナニ見学してんだよ」

「いや〜思えば久しぶりに見たな〜と」

「なにが?」

「ネコお嬢がバトってるとこ」

「・・・見てどうすんだよ。見学料取るぞ、コラ」

「最初に会ったときもそんなこと言ってたな〜。ケチくさいこと言うなよな、オジョーサマ」

「うるせーよ、それとこれは別問題」

「なるほどな。じゃぁ、見学料でも払わせてもらいますか」

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12、初心忘るべからず

 

 

 

 

 

 

 

 

残暑も厳しい毎日。

泣く子も黙る、ここら一帯を締める暴走族『紅蓮』の族長は、陽が落ちたころに、ようやくクーラーがガンガンに効いた族長専用の部屋からお出ましになった。

 

 

「陽は落ちたか?」

「この時期の陽の入りは遅いですよ。涼しくはなりましたけど」

「しょーがねぇ。じゃぁ、それで妥協してやるか」

里井くんとなにやら短い会話を交わして、面倒くさそうなため息をひとつ吐いてから、族長はアジトを後にする。

見回りというわけではなく、ウサ晴らしになる喧嘩の種がどこかに転がっていないかを探すために。

 

 

 

 

 

 

ふらふらと適当に歩いていると、ふと、見覚えのある街角にぶちあたった。

そうしてついつい思い出してしまう。

そういえば、以前ここを歩いていたときに、おもしろいもんを見つけたんだった、と。

 

 

ただ、何かに引き寄せられるかのように辿りついた場所で目にしたもの。

一見すれば、か弱いお嬢様がバカそうな連中に囲まれ連れられて行く、という光景。

けれど、気まぐれに追いかけてみれば、その『か弱いお嬢様』が大活躍の大立ち回りで、そのバカどもをノしていたのだから、おもしろいったらない。

 

 

おとなしくしていれば、清楚なお嬢様に見えなくもないのに、喧嘩が始まればそんな印象は180度変わってしまう。

このギャップをおもしろいと言わずに何と言おう。

 

 

 

あのとき、巨大猫を脱ぎ捨てて大暴れしていたお嬢様との初対面のとき、彼女を見て、

「いいおもちゃを見つけた!!」

と瞳を輝かせた族長の高揚を知る者は、とりあえず、いない。

 

 

 

それからも、なんだかんだと拉致したりアジトに連れてきたりしていたら、『紅蓮』のメンバーとも仲良くなって、自然とアジトに居着くようになってきたお嬢サマ。

・・・そう、まぎれもなく、列記としたお嬢サマではあるのだけど。

 

 

 

 

 

当面のところ、『紅蓮』のメンバーは彼女がアジトに出入りすることに大歓迎のようだし、里井もなんだかふたりを微笑ましく見守っていたりするようだ。

族長としても、こちらの『事情』さえばれなければ、置いといてもからかいがいのある存在なので、一向に構わないとは思っている。

 

 

 

 

 

そんな風に、珍しく物思いに耽ってみたりしながら、その道を進んでいく。

この角を曲がったら、ネコお嬢がケンカをしていた場所に行きつく。

衝撃的なギャップを見せつけられた、あの瞬間の場所に。

そう思いながら角を曲がれば・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「・・・おぉ・・・」

思わず、そう声が漏れてしまう。

そして、それから笑いが込み上げてしまい、そのままケラケラと大笑いを始めてしまった。

「・・・あ、何笑ってんだよ?!」

「いやいや、お構いなく、続けて、続けて」

「・・・ったく、覚えてろよ?!」

「なんだ?!アイツもテメェの仲間か?!」

「誰があんな奴が仲間なもんか!!」

 

 

 

角を曲がれば、そこで族長が見たのは、なんと、あの時と同じように、複数の不良とバトルをしているネコお嬢の姿。

それもなんとも見事に全員一発KO中。

一体あの小さな体にどれだけの力があるのだか。

・・・いや、よく見てみれば、『小さな力』で『確実に急所を狙う』技を使っているのだが。

 

 

 

 

とにかくも、まさかの光景を目の当たりにした族長は、もはや笑いが止まらなくなっていた。

その笑い声に気付いたネコお嬢が不満を口にしたが、なにせバトル中。

何かを言おうにも、それより先に手足を動かさないといけない。

そんなふたりのやりとりを見て、ネコお嬢のバトル相手だった連中が、族長を仲間だと思ったらしいが、その言葉にキレた彼女がさらにパワーアップして、残党を気持ちいいくらいにボコボコに殴り倒していった。

 

 

一応、彼女を襲った連中を擁護すれば、彼らは別に弱いわけでもなんでもない。

お嬢さまであるはずのネコお嬢が強いのだ。

人の急所という急所を叩きこまれている、まるで拳法のような戦い方。

だが、拳法とも違う。

いったい、こんな戦い方を彼女はどこで教わったというのだろう・・・・・・。

 

 

 

 

見ている側も気持ちがよくなるほど容赦なくボコボコに相手を崩していく彼女のバトルっぷりを見学しながら、族長はそんなことを考えていた。

・・・けれど、それもすぐ終了したのだが。

 

 

 

 

 

綺麗さっぱりとその場を片づけたネコお嬢は、まだ肩で息をしながら、ず〜〜〜っと見学を貫いていた、ニヤニヤ笑いの族長を睨みつけた。

「・・・・・・ナニ見学してんだよ」

「いや〜思えば久しぶりに見たな〜と」

「なにが?」

「ネコお嬢がバトってるとこ」

「・・・見てどうすんだよ。見学料取るぞ、コラ」

「最初に会ったときもそんなこと言ってたな〜。ケチくさいこと言うなよな、オジョーサマ」

「うるせーよ、それとこれは別問題」

「なるほどな。じゃぁ、見学料でも払わせてもらいますか」

「へ?」

まさか族長がそんな返答をするとは思っていなかったのだろう。

拍子抜けした顔をするネコお嬢。

そんな顔を見るのもおもしろいが、族長はさらに彼女に楽しい反応をしてもらいたかった。

彼女が楽しいかどうかじゃなく、彼が楽しいかどうか、なのだが。

 

 

 

 

 

「ま、ついて来いって。い〜とこに連れて行ってやるから」

「・・・ま〜た、『初体験』ってやつ?」

「そーそ。オレ様といると、初体験がいっぱいできてい〜だろ〜?」

「・・・ハイハイ」

得意気に威張る族長に対し、すでに諦めモード突入のオジョーサマ。

これならぎゃぁぎゃぁ逆らうこともなさそうだ、と悟った彼は、それでも強引に彼女を引っ張り、とある場所までバイクに乗せて行った。

それは。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ゲームセンター?」

「っそ。入ったことないだろ?」

「あったりまえ。この制服で入れるわけないだろ」

「へーきへーき。ここ、隣町のゲーセンだし、ここもオレのシマになったから、いくらでも口止めできるし」

「・・・は?シマになった?」

「オレたちに喧嘩売りやがった奴らを探して無駄な喧嘩を繰り返しているうちに、なんか領域が広がっちまったんだよなぁ」

あはは、なんて軽く笑いながら言うが、暴走族が自分たちのテリトリーを奪い合うのは壮絶なもののはずだ。

それがあっさりと、彼のものになってしまった、ということは・・・・・・。

 

 

 

「意外と『紅蓮』ってケンカだったら使いものになってたんだな。普段あんなんなくせに」

「・・・他に言うことないのかよ。しかも、オレへの賛辞はなし?」

「なんであんたを褒めるんだよ」

「『あなたってそんなに強かったのね、素敵!!』とか思わねぇ?」

「・・・・・・本気で、私に、そう言ってほしいのか?」

「・・・・・・・・・イイエ」

念を押すようにして彼女が尋ね返せば、それを想像したのか、彼は渋い顔で首を横に振った。そして、気を改めて、彼女にニヤリと笑いかけた。

「さ〜て、どれから対決するかね?」

 

 

 

 

ゲームセンターは対決物の宝庫だ。

クレーンゲームひとつにしても、いくつ獲れたかで対決できるし、もともと対決するためにできているゲームなど腐るほどある。

もともと負けず嫌いなオジョーサマである。

途端、始まった族長との戦いに一気に火がついた。

 

 

 

「あー!!卑怯だぞ、今の!!」

「卑怯なもんか、そーゆーテクニックなんだよ〜」

「・・・あんたなぁ、初心者に優しくしてやろうとか思わないわけ?」

「は〜?ネコお嬢ってば、オレがそんな男に見えるわけ?」

「全然見えないけど」

「全否定かよ。ま、いーけど。ホ〜ラ、そんなこと言ってるとまた負けるぜ〜?」

「あ、こら、この卑怯者〜!!!」

「ハッハッハッハッハ!!!」

 

 

 

おおいに白熱するふたりの対決。

たしか、猫被りをしているはずのお嬢さまは、制服でゲームセンターにいることはばれたくないと騒いでいたはずなのだが、すでに彼女の中ではそんなことは遠い彼方にお追いやられてしまったらしい。

 

 

 

それよりもなによりも、どうあがいても勝つことのできない族長にイライラを募らせているようである。

そんなネコお嬢に対し、からかって煽る族長のなんとも輝いていること。

 

 

 

 

偶然その場に居合わせていた『紅蓮』のメンバー数人は、あえて声もかけずに白熱するふたりの対決を眺めていた。

すでに彼女たちは様々なゲームで対決をし続けている。

それをすべて見学している、暇なこのメンバー。

しかも、彼女たちの対決を邪魔しようとする不埒な者たちがいようものなら、暴走族たる迫力で威嚇し追っ払う始末。

もちろん、この対決の模様は、アジトにいる残りの『紅蓮』のメンバーにも伝えられていた。

 

 

 

 

 

 

「里井、そんなとこでRPGしてねぇで、ゲーセン行かねぇ?」

「・・・どうしたんですか、突然?」

族長専用付き人の里井くんのお気に入りのゲームは、RPG。

最近テレビゲームを大占領してくる族長もネコお嬢さまもいない今こそチャンス、とピコピコとRPGを進める里井くんに、アジトに残っていた『紅蓮』メンバーから声がかかった。

 

 

 

「今連絡があって、2つ先の街のゲーセンで、族長がネコお嬢と対決してるらしいぜ?せっかくならそっち見に行きたくねぇ?!」

「・・・・・・ナニやってるんですか、族長は・・・・・・」

たしか、彼が先ほどアジトを出て行った目的は違ったはず・・・・・・。

なにをどうして、またいつものようにオジョーサマを連れて、ゲームセンターなんぞに行ってしまったのだろうか・・・・・・。

きっと、また、いつもの彼の気まぐれだろうけれど。

 

 

 

 

「俺たちこれからそこのゲーセンに行くけど、里井はどうする?」

問われて、里井くんはすぐさま首を横に振る。

「いいえ、このゲームを進めるチャンスは今だけなので」

どうせ、族長とオジョーサマの白熱ぶりは想像できるし、ひとしきり対決を終えれば、たぶん、お迎えに来いと呼ばれるだろうから。

 

ならば、誰もいない今のうちに、さくさくとRPGのダンジョンを進めておかなくては。

 

 

 

「そ、そうか・・・」

里井くんの固い決意が伝わったのか、『紅蓮』メンバーもそれ以上無理強いはすることなく、アジトを後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++++++++++++++++++++++

番外編も始めることになり、それぞれが月1回更新を目指そうと思ってます♪今までは本編が月2回更新されていましたけどね〜。

 

 

さて、こちらではちょっとふたりの出会いを思いだす族長なんぞ出してみたり。

で、ゲーセンに行っちゃうし。

本当はゲーセンでバトるふたりと書けたらもっと楽しかったんですけどね〜。

 

 

今回は里井くんは、お呼び出しもないのでお留守番だったようです。もちろん、このあと、ネコお嬢を自宅まで送るのはやっぱり彼のお仕事なんですけど。

 

 2010.11.10

 

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