「・・・アイツ、何者だよ?」
「あいつ?ただのお守役だけど?あぁ、でも、私に色々護身術叩きこんだのはあいつ」
「・・・ふ〜ん」
「なんだよ、どうかしたのか?」
「・・・別に」
「なんだよ、気持ち悪いな、はっきりしろよ」
「・・・・・・」
「トリ頭?」
「・・・じゃぁ、言うけど」
「うん?」
「その格好、似合ってないぜ?」
13、馬子にも衣装
「あっはっはっは!!」
深夜の街に響く、大笑い。大爆笑といっても問題ない。
「わ、笑うな!!失礼な奴だな!!」
その大笑いの原因をつくった本人、一ノ宮 桜桃ことネコお嬢さまは、ムキになって大笑いの主に言い返す。
その大笑いの主である、この辺り一帯・・・・・・どころか最近領域が広がっている暴走族『紅蓮』の族長は、それでもなお、笑い転げている。
「だってこれは笑うとこだろ?!」
「なんで笑うとこなんだよ?!失礼だろ!!」
「つってもなぁ〜、ネコお嬢がトラ並みの大ネコ被ってる姿を目の当たりにして・・・・・・くくくっ・・・笑わずにいられないだろ・・・・・・!!」
「あぁん?別にあんたたちに会ってからネコ被ってないだろ?せいぜい、いつもと違う服装なだけで」
「それがおもしろいんだって」
「それが失礼なんだよ!!」
ケラケラと笑う族長に、ジト目で睨み返すオジョーサマの姿は、まさしく「お嬢さま」。
淡いピンクのプリンセスラインの膝丈のドレスを身に纏い、煌びやかなアクセサリーを身につけ、およそ高校生とは思えぬほどの大人っぽい化粧をしている。
それがまた、『黙っていれば』、清楚でおしとやかな「お嬢さま」に見えるほどよく似合っているのだ。
・・・黙っていれば。
そんな『正装スタイル』のお嬢さまとばったり遭遇してしまった『紅蓮』メンバー。
互いにまさか遭遇するとは思えず、特に『紅蓮』側はオジョーサマのいつもとあまりにも違うスタイルに固まること数分。
やがて、その場にいた『紅蓮』族長の大笑いで、その場の凍った空気が動いたのである。
「あ〜笑えた。で?なんでアンタはまた、こんな格好でこんな場所にいるんだ?」
「・・・あんたたちは?」
「オレたちはいつもの見回り」
「というか、ケンカだろ?」
「そうとも言う」
「そうとしか言わない」
「ま、そんなことはいい。ネコお嬢はどうしたんだよ?そんな格好して歩いてたら、いろ〜んな連中に狙われるぜ?いくらネコお嬢がケンカに強いたって、その格好じゃ満足に動けないだろ?」
「・・・・・・フけてきたんだよ」
「・・・・・・何に、とか聞くべき?」
「どうせわかってるんだろ?」
「まぁ、その格好見たら、子供でもわかるな。『お嬢さま』『ドレス姿』とくりゃ、『パーティー』だわな」
あっさりと族長が答えれば、別方向から抗議の声があがった。
「え〜!!ネコお嬢、パーティーをさぼったのかよ?!もったいねー!!」
「うまいもん食いたい放題だろ?!」
「しかもカワイイ子だっていっぱいいるんだぜ、きっと!!」
「金持ちもうようよいるんだろうしな〜」
「床に金が転がってそうだよな〜」
「世間知らずのお坊ちゃんとかを揺すったら出てきそうだよな」
「・・・・・・おまえらの考えることはその程度かよ」
「・・・まったくだ」
ネコお嬢サマと族長が話している会話を聞きつけた『紅蓮』メンバーが口をはさんでくるが、その低レベルさに思わず彼女が突っ込めば、族長もまたそれに同意してくる。
「でも、ネコお嬢、その格好綺麗ですよ〜!!別人みたいで!!」
「本当にお嬢さまだったんだな〜って思うな〜」
「黙っていれば、本当にどこかの可憐なお姫様みたいだし」
「そのドレスも高いんでしょうね〜。いやぁ、よく似合う似合う、いいドレスだし」
何の悪びれもなく、『紅蓮』メンバーはそう言いながら彼女を見回している。
彼らは彼女を褒めている・・・・・・つもりなのだろう、たぶん。
「・・・あいつら、私にケンカ売ってるわけ?」
「いや、バカだからそういうことじゃねぇと思う」
「褒められているように聞こえないけど?」
「奴らにそう言ってやれ」
わらわらとネコお嬢さまに群がっては、見当違いな賛美の言葉を告げる『紅蓮』メンバーにため息をつけば、族長は投げやりな態度で彼女をその輪の中に押し込んだ。
『紅蓮』メンバーの輪の中に押し込まれ、あれやこれやと見当はずれな賛美を受けては突っ込んでいるお嬢さまの姿を見ながら、族長は薄く笑う。
「まさかあのお嬢さまがこんなにオレたちと馴染むなんてな〜」
「・・・そうですね、わたしも正直、驚きました」
族長の独り言に、まさかの相槌の声が聞こえ、族長はぎょっとしてその声のした方向を見た。すると、いつの間にいたのか、族長の少し後ろにひとりの若い男が立っていた。
年の頃としては、20代後半といったところだろうか。
すらりと背の高いその男は、嫌味なくスーツを着こなしているように見えた。
・・・同じ20代でもこうも違うものか、とふと族長の頭をよぎったのは、彼専用の付き人である里井くん。
比べる相手が間違えているような気もしないでもないが。
だが、目の前にいる男には、まったくの隙がなかった。
それがまた、族長の中で、警鐘を鳴らし続けていた。
「・・・あんた、誰?」
「これは申し遅れました。桜桃お嬢さまのお目付け役をしております、松田と申します」
「・・・松田・・・・・・。あぁ、スイカ割りでスイカを届けに来たってヤツ?」
「えぇ、あのときはご挨拶もせずに失礼いたしました」
「・・・・・・イーエ」
にこりと笑いながら丁寧な口調で『松田』は言うが、その目がちっとも笑っていないのを族長は気付いていた。
『松田』なる人物が、以前アジトでスイカ割りをすることになり、ネコお嬢にスイカを持って来させたときに一緒にいた人物だ、と里井くんから報告は受けていた族長。
まさか、こんなに危険な香りのする人物だとは、正直思ってもいなかったのである。
なんだろうか、このひしひしと伝わってくる、背筋が凍るような気配は。
今まで散々様々なケンカや修羅場を乗り越えてきたつもりの族長ですら、全神経を使って警戒しなければならないような、そんな、空気。
それを察知しているかどうかはわからないが、相変わらず松田は、『紅蓮』メンバーの輪の中にいるネコお嬢さまに目をやりながら族長に話しかけた。
「お嬢さまは、あなたがたと出会ってから、変わられました」
「そ?オジョーサマらしからぬ行動が目立つようになりましたって苦情なら受け付けないけど?」
「いえいえ、むしろその逆です。あんなに毎日不安定に荒れていたお嬢さまの空気が、穏やかで楽しそうなものに変わられた。現に、ああしてあなたがたのお仲間といらっしゃるお嬢さまはとても楽しそうです」
「そりゃー、金持ちがゴロゴロいるパーティーよりかは、あいつらと居る方が楽だろうな〜」
「パーティーは窮屈だと?」
「そうだろ?やれ、ご挨拶だ、おべっかだ、相手を持ち上げては褒め称え、お世辞の言い合い。思ってもいねーことをあーだこーだとニコニコ笑いながら言わなきゃならねーなんて、窮屈のなにもんでもないだろ?」
「なるほど、よくご存じでいらっしゃいますね」
にっこりと笑いながらそう言う松田を、族長はじろりと睨み返す。
「・・・何が言いたい?」
「いえ、特には。どうか、これからも桜桃お嬢さまをよろしくお願いします」
「へー?大事なオジョーサマをこんな荒くれ者ばっかりの集まりである暴走族によろしくしちゃっていいわけ?」
「えぇ、大丈夫ですよ。『あなた』がいるのなら」
「お〜い?ナニ話してるんだ、トリ頭と松田は?」
松田の最後の一言に反論しようとした族長の背後から、話題のネコお嬢さまの声が聞こえ、彼は口をつぐむ。
そんな族長の様子を見て、松田は小さく笑ってから彼に一礼した。
「今夜はわたしはこれで失礼いたします。先ほどあなたがおっしゃったように、あのお姿では危ないかと思って、夜道のお伴をさせていただいていたのですが、あなたがたにお任せしてよろしいですよね?」
「・・・・・・オジョーサマなら車で帰ればいいだろ?」
「桜桃お嬢さまが嫌がられたので」
「甘やかして育てるとろくなことねーぞ?」
「肝に銘じておきます」
「・・・・・・ったく。ま、今夜は送らせるよ、あんたのとこの大切なオジョーサマを」
「ありがとうございます、それでは」
丁重にもう一度頭を下げてから、松田はネコお嬢さまに一言何やら告げて姿を消してしまった。
すると、彼女は首を傾げながら族長の元に歩み寄ってきた。
「なぁ、ナニ話してたんだ?松田が誰かを信頼して私を置いていくなんて珍しー」
「ふん、よっぽど過保護な用心棒なんだな」
「まーねー、だからうざいし邪魔に思うことしばしば。口うるさいし」
「・・・アイツ、何者だよ?」
「あいつ?ただのお守役だけど?あぁ、でも、私に色々護身術叩きこんだのはあいつ」
「・・・ふ〜ん」
「なんだよ、どうかしたのか?」
「・・・別に」
「なんだよ、気持ち悪いな、はっきりしろよ」
「・・・・・・」
「トリ頭?」
「・・・じゃぁ、言うけど」
「うん?」
「その格好、似合ってないぜ?」
「・・・・・・んな・・・!!またその話をぶり返すのかよ?!」
「似合わないもんは似合わねーんだよ!!さっさと脱いじまえ、そんなもん」
「はぁ?!さっきまで大笑いしてたかと思ったら、今度はなんでそんな怒ってるんだよ?!」
「うるせーな、オレ様の勝手だろ?!」
「なんだと?!勝手に八つ当たりしやがって、いい加減にしろよ?!」
「ぞ、族長、ネコお嬢、落ちついて落ちついて!!」
なぜかヒートアップし始めたふたりの口喧嘩に、慌てて『紅蓮』メンバーが仲裁に入る。
そして、ネコお嬢さまを族長から引き離し、彼らは再び彼女を見当違いに褒め称え始めた。
・・・・・・が、すでに不機嫌モードに入ったオジョーサマは、そんな見当違いの称賛に、今度は突っ込む間もなく容赦なく殴りかかり、怒りを発散し始めた。
一方、ひとり取り残される形になった族長のそばにそっと駆け寄ったのは、彼の付き人である里井くん。
「・・・族長?どうされました?」
「松田ってやつと話した」
「あ、そうなんですか?どうでしたか?」
「・・・・・・ただもんじゃねぇな。ネコお嬢の変な戦い方もアイツが教えたっていうし」
「確かに、結構強そうな感じしましたねぇ〜」
「どうせお前は誰と戦っても勝てやしねーだろ、里井」
「・・・・・・えぇ、まぁ、そうなんですけど」
「ケンカ弱ぇんだから、さっさと『紅蓮』なんか抜けていいって言ってるじゃねぇか」
「いいえ、それはできないと、僕も何度も言ってますよ」
ふてくされたように告げる族長に、にっこりと笑い返す里井くん。そんな里井くんに、族長は心底迷惑そうにため息をついて、彼に背を向けて歩き始めた。
「とにかく、あの男には気をつけた方がいい。それと、ネコお嬢をいつものように送ってやれ」
「わかりました、族長」
素直にそう返事をして、里井くんはひとりアジトに足を向けて歩き始めた族長の背中を見送った。
そして、今もなおヒートアップした熱が冷めずに『紅蓮』メンバーに八つ当たりするネコお嬢さまの元へ里井くんは足を向けた。
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お嬢様の格好をしたネコお嬢と、『紅蓮』メンバーの遭遇。
これはこのシリーズで絶対やりたかったエピソードだったので、書くのは楽しかったです♪
そして、同時に、なぜかちょびっとシリアス?!
族長と松田が会話する日が来ました(笑)
里井くんとネコお嬢の遭遇並みに楽しかったりしましたが♪
ネコお嬢と『紅蓮』メンバーのやりとりで、なにかリクエストでもあったら、このシリーズが終わってしまう前に、ぜひともどうぞ!!(笑)
2010.12.4