「で?結局ネコお嬢は何が言いたいわけ?」
「だから!!こういう事態になったのも、なにもかもすべて、あんたのせいだって言ってんの!!」
「オレのせい?」
「あんたの統率がなってないんだよ!!ここらをしめてるって威張るんだったらやることしっかりやれよ!!」
「・・・ふぅん。まぁ、道理だな」
「・・・・・・・・・そうだろうとも」
「わかった。数日以内にカタつけてやる。だから、もっと詳しい情報よこせ」
14、柳眉を逆立てる
今日も今日とて、『紅蓮』のアジトはゆる〜りと時間が流れていた。
ある者はゲームをしたり、賭けごとをしていたり、喧嘩をしていたり、トレーニングをしていたり、のったりまったりしていたり。
それぞれが思い思いに時間を過ごしている中、彼らのリーダー、『紅蓮』の族長もまた、自分の部屋でイビキかいて居眠りしていた。
時間的にはそろそろのはずだ。
『紅蓮』のメンバーは、時計を見てはそわそわと落ちつきなく何かを待っていた。
すでに自分のやっていたことを片づけて、部屋の扉を見つめている者もいる。
そう、彼らは待っていた。
今日もまた、いつものように、彼らの遊び相手でもある、『お嬢さま』がここに来てくれることを待っていたのだ。
いつものように
「つっかれた〜、おい、なんか飲むもの用意しろ〜」
と、女王様よろしく、先ほどまで被っていたであろうネコを脱ぎ捨てて。
そして『紅蓮』のメンバーたちと喧嘩したり、ゲームで勝負したりと、騒がしくも楽しい時間を過ごすのだ。
それが最近のアジトの中の日常。
ところが、その日は非日常がやってきたのだ。
「・・・・・・えっと・・・ネコお嬢・・・?」
「あのバカはどこにいる?」
恐る恐る、といった体で、メンバーのひとりがアジトに現れたお嬢さまに声をかける。
それほど、彼女の雰囲気がいつもと違っていたのだ。いや、オーラそのものが違うというか。
なんというか、紫を通り越してどす黒いオーラがにじみ出ているのだ。
「な、なにかあったんすか、ネコお嬢・・・?」
「あのバカがどこにいるか聞いてるんだよ、答えろ」
もはや殺気といっても過言ではない気配で、彼女はそう彼らに告げる。
さすがにこのような事態には、彼らも陥ったことはない。
とはいえ、彼女がお探しの『あのバカ』はおそらく彼らの族長。
そして、只今イビキをかいてお休み中。
あともう2時間くらいは起きないだろう。
常ならぬ彼女の気配と態度に戸惑いながらも、さすがに喧嘩慣れしているメンバーは、あてられた殺気をものともせずに、とりあえず笑って誤魔化してみることにした。
「なんだなんだ、ネコお嬢ってば〜!!族長に会いにきたってか?」
「いよいよ族長に愛の告白か?!それならおれに告白してよ〜」
「それよりもさ、ネコお嬢!!新しいゲームが手に入ったんだ、対戦しようぜ!!」
「おっと、その前にこの前のゲームの対決がまだ決着ついてないぜ〜」
「まー、とにかく、なんかむしゃくしゃしてんなら、ゲームでウサ晴らししようぜ〜」
わらわらとお嬢さまを囲ってニコニコと笑いながら、なんとか彼女の不機嫌を直そうと懸命にあれこれと話しかける『紅蓮』メンバー。
ここらをしめる、泣く子も黙る暴走族のメンバーとしては、なかなかむなしい光景ではある。
が。
今日に限っては、彼らのそんな慰めも無意味であったようだ。
「・・・質問に答えろ。どこにいるんだよ」
無機質で無感情な瞳が、能面のような表情の中でまっすぐに彼らを射抜く。
彼女の中を占めるのは、驚異的な怒りの感情、ただそれだけのようだった。
「・・・ネコお嬢・・・?なにがあった・・・?」
さすがにこの異常事態を不審に思ったメンバーのひとりが声をかければ、彼女はすぐさま彼に飛びつかんばかりに掴みかかった。
「聞こえなかったか?!あんたらのリーダーを出せって言ってるんだよ!!」
「・・・お嬢さま・・・?!」
彼女の叫び声を聞きつけ、族長の部屋から族長専任の付き人である里井くんが飛び出してきた。
緩むことなく漂う殺気を里井くんにぶつけながら、彼女は低い声で問う。
「・・・部屋にいるのか?!」
「・・・・・・まだ寝てますよ?」
「叩き起せ」
「何があったんですか、お嬢さま?せめて事情だけでも僕らに・・・・・・」
「うるさい!!すべておまえたちが悪いんじゃないか!!!」
「おいおい、一体何の言いがかりだよ?」
緊迫する空気を切り裂いたのは、寝起きとは思えぬほどしっかりとした声。
揶揄するような口調とは裏腹に、そこには珍しいほどの真剣見が滲み出ている。
本気モードだ。
思わぬ展開に、その場に居合わせてしまった『紅蓮』メンバーはただ黙って固唾を飲んで見守るしかない。
いつの間にか昼寝から目覚め、怒り心頭のネコお嬢をいつものようにからかうような表情をつくりながら、その異常な空気を正確に察知した彼らの族長は、ネコお嬢にそう尋ねた。
そして目的の人物を視界にとらえた彼女は、鋭い視線を彼に向けた。
唇をきつく噛みしめて。
「なんだよ?なんか言うことあってここに来たんだろ?うるさくって寝てられやしない」
「・・・・・・寝る・・・?この状況で・・・?はっ、おめでたいな」
怒りのためか、震える声で彼女はそう言う。族長は目を細めて彼女を見返す。
「あぁ?喧嘩を売りにきたのか、ネコお嬢?あいにくだが、あんたの憂さ晴らしに付き合うほど暇じゃないぜ?」
「寝てるほど暇なのにか?」
「・・・なぁ、アンタ、そんなこと言うためにここに来たんじゃねぇんだろ?」
ふぅ、とため息と同時に族長がそう言えば、彼女は再び唇を噛みしめた。それが白く変色してしまうほどに。
やがて、彼女は大きくひとつ深呼吸をした。まるで気持ちを押さえ込むかのように。
「・・・・・・私の学校の友人が、クスリに嵌められた」
何の感情もなく放たれた言葉が、アジトの中で響いた。
途端、メンバーは全員沈黙のまま視線を交わす。
その中で、族長がじっと彼女を見下ろしながら言った。
「ネコお嬢の学校の友人つったら、『お嬢サマ』だよな?なんで過保護なほど守られているオジョーサマが、クスリになんかハマるんだ?アンタじゃあるまいし、裏道をうろうろしてるわけでもないんだろ?」
「・・・・・・巧妙な手口を使って、最近そういうクスリが流行っていると聞いたけど?」
責めるような彼女の視線を、彼は真っ向から受け止める。
それを見守る『紅蓮』メンバーにも戦慄が走る。
そう、最近この界隈で、表道裏道問わずに、巧妙な手口で曰くつきのクスリを広めているグループがいるのは彼らも知っている。
しかも、そのグループは彼ら『紅蓮』に向かい、
「ここらをしめてるなら、捕まえてみせろ」
と挑発してきたのだ。
普段、彼らの族長はそのような挑発には簡単には乗らない。
メンバーだけでさっさと喧嘩の高価買取をしてしまうだけだ。
だが、そこに非合法なドラッグ取引が絡めば話は別だった。
族長曰く、
「くだらねぇやり口で、つまらねぇ金稼ぎすることは、オレ様の領域じゃ許さねぇ」
ということだ。
故に、彼らはずっとずっとそのグループを探し続けていたのだが、まったく足取りが掴めずにいたのだ。いつもいつも聞くのは、取引の跡を辿るだけ。
じわじわとそのクスリが広まっていることには、たしかに『紅蓮』メンバーも、族長も焦りを感じ始めていた。
だがまさか生粋のお嬢さまである、ネコお嬢の友人にまで魔の手が伸びているとは。
「何してんだよ、あんたたちは。こんなとこでぶらぶら時間つぶして、昼寝して。そんなんでここらを締めてるだって?笑わせるなよ?」
怒りで声を震わせ、鋭い視線で族長を睨みつけるお嬢さま。
そしてその視線を揺るぐことなく真っ向から受けている族長は、冷静に彼女に問う。
「で?結局ネコお嬢は何が言いたいわけ?」
「だから!!こういう事態になったのも、なにもかもすべて、あんたのせいだって言ってんの!!」
「オレのせい?」
「あんたの統率がなってないんだよ!!ここらをしめてるって威張るんだったらやることしっかりやれよ!!」
「・・・ふぅん。まぁ、道理だな」
「・・・・・・・・・そうだろうとも」
「わかった。数日以内にカタつけてやる。だから、もっと詳しい情報よこせ」
もっと口論が繰り広げられるかと思えば、意外にもあっさりと素直に認めた族長の態度に、完全に毒気を抜かれてしまったらしいお嬢さま。
一瞬勢いが衰えた。
「部屋でもっと詳しい話を聞かせな。どうせ色々情報は持って来たんだろ?」
「・・・・・・当たり前だろ」
「よし、それでこそネコお嬢」
ニヤリと笑みを浮かべ、自室に向かう族長。
その後を追うお嬢さまの空気も、アジトにやってきたときよりも和らいでいた。
そして、『紅蓮』メンバーは族長の部屋の扉がゆっくりと閉まるのを見届けていた。
ネコお嬢も帰り、アジトの中に控えるメンバーも数人になった夜遅く。
自室でじっとひとり考え込んでいた族長は、暖かなコーヒーを持ってきた里井くんに視線を向けた。
「・・・里井、ネコお嬢の話は聞いていたな?」
「えぇ、一緒に部屋にいましたから」
「じゃぁ、次に何をするべきかはわかっているな?」
「・・・・・・手段は問いませんか?」
「この際問わない」
「かしこまりました」
ふんわりと笑いながら、里井くんは族長にそっと腰を折った。
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最後の族長と里井くんのやりとりを書きたいためだけに書いた1話(笑)
前々から族長たちが追いかけていたグループが、とうとうお嬢サマ側にもちょっかいを出すようになり、いよいよ話は進展・・・・・・するんですか?!(え)
本当は乱闘騒ぎでも起こしてアジトに乗り込んでもらおうかとも思ったのですが、ネコお嬢を慕っている『紅蓮』メンバーなら、彼女を宥める手段に出るだろうなぁ、と思い(笑)
筋は通す族長、カッコイイです!!
2010.12.14