「・・・また勝手な・・・」

「いーだろ。どのみち目的は果たしたんだし。もうこの辺りをうろつくこともできないだろ」

「へぇ?その根拠は?」

「あと15分もすれば警察が検挙しに来るから」

「警察?!警察が介入するのか?!喧嘩に?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

15、風を食らう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて、いつものように暇つぶしを兼ねていつもの場所に向かった彼女は・・・・・・その珍しい光景に目を丸くした。

 

 

いつもはうるさいくらいに賑やかなそこに、まさに人っ子一人、誰もいなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

「なに、これ・・・」

暴走族『紅蓮』のアジトに足を運んだ桜桃は、がらんとした部屋の中を見渡して、思わずそう呟く。

おそらくこの様子だと族長室にも族長はいないだろう。

いったい何があったというのか。

 

 

 

 

 

その場に立ち尽くしていると、聞き慣れた声が彼女に呼びかけた。

「あれ、お嬢様じゃないですか」

「・・・里井」

それは、族長専任のお世話係でもある里井くん。最近では、桜桃のアッシーにもなっていたりする。

 

 

 

誰もいないと思っていたアジトに彼だけ残っていたということは・・・・・・おそらく彼がお留守番をしなければならないような事態で、全員が出払っているということで・・・・・・

「なんか大物でもかかったのか?」

「あ、やっぱりわかります?」

「全員出払っていて、戦力外の里井だけ残っているってことはそれしかないだろ。それにしても全員いないとは珍しい」

大勢で嬉々として大物捕りに行くのはさして珍しいことでもないのだが、アジトの中を無人にしてまで全員向かったというのはよほどの大物に違いない。

・・・・・・どうせなら、そんなスカッとしそうな喧嘩なら参加したかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「先日お嬢様がくださった情報のお陰で、やっと尻尾がつかめたんですよ」

「・・・って、あのクスリを売りまわっていた奴らの?!」

「そうです、そいつらです」

にこにこと笑いながら頷く里井くん。そんな彼に、オジョーサマは怪訝な表情を浮かべて、あえて尋ねてみた。

「・・・尻尾を掴んだって・・・・・・どうやって?」

「それは色々とですよ、色々と」

こんなときは、里井くんのにっこり笑顔もなんだかうすら寒く見えるのだから、不思議である。

だが、その返答では詳しく話を聞けそうにもないことを悟った彼女は、軽く伸びをしてから里井くんに言った。

 

 

 

 

「ん〜・・・じゃぁ、ここにいても仕方ないし、帰るわ」

里井くんは桜桃が特訓中のゲームは得意ではないし、何よりあのうるさい連中がいないとなんだか調子が狂ってしまう。

「そうですか?では車で送りましょうか?」

「いや、まだ明るいし、平気。それに、里井ひとりで留守番だろ?歩いて帰るから大丈夫」

里井くんの申し出を軽く断って、彼女はアジトを早々と後にしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

色々と未消化な気分で彼女は家路を歩いていた。

彼女が歩くその道は、人がたくさん通る大通りなので、よっぽどのことがない限りはバカで面倒な連中に絡まれることもない。

もっとも、絡まれたら絡まれたで、やり返すので構わないのだが。

 

 

 

 

それにしても、せっかくこちらが情報提供をしてやったというのに、大物捕りの連絡のひとつもないとはどういうことだろうか。

あわよくばその乱闘に混ざってストレス発散をしたいと狙っていたのに。

せっかくのストレス発散のチャンスを奪われ、残念に思いながら歩いていると、ふと、見覚えのあるバイクが一台、目の前を横切った。

 

 

 

 

「・・・あれ、今のって・・・」

そのバイクを目で追いかけていると、突然そのバイクが急停止した。そしてバイクから降りた人物が、こちらに向かって歩いてくる。

ヘルメットをかぶったままのその人物に、桜桃は言ってやった。

「で?首尾はどうだったんだよ?」

「上々に決まってるだろ」

ヘルメットをとりながら、その男はうれしそうにそう言った。

 

 

 

「根こそぎ壊滅してやった。口ほどにもねぇ連中だったぜ。ったく、オレ様にケンカ売るなら、もっと張り合いがないとな。こそこそ逃げ回りやがって」

憤慨してそう言う彼こそ、この辺り一帯を取り締まる暴走族『紅蓮』の族長その人である。

だが、そんな肩書などなんのその。

桜桃にとっては、鳥の脳みそほども持ち合わせていないと思っている、ただのケンカ馬鹿である。

 

 

 

 

 

「で?なんであんたひとりなわけ?他の奴らは?」

「あぁ、まだ雑魚の処理してるぜ。オレは上層部つぶしたら満足だったから帰ってきた」

「・・・また勝手な・・・」

「いーだろ。どのみち目的は果たしたんだし。もうこの辺りをうろつくこともできないだろ」

「へぇ?その根拠は?」

「あと15分もすれば警察が検挙しに来るから」

「警察?!警察が介入するのか?!喧嘩に?!」

ぎょっとする彼女とは対照的に、族長はけろっとした態度で答える。

「ったりまえだろ。オレ様の領域でドラッグなんてつまらねーもんをばらまきやがったんだ。おさまるところにおさまってもらうぜ」

「でも検挙されるときにあいつらもいたらやばいんじゃないか?!」

「そこはぬかりなし!!」

自信満々に胸を反らせて族長は言う。

そして腕時計で時間を確認しながら、彼は彼女に教えた。

 

 

 

「里井がアジトに残ってただろ?あいつが連絡係として警察に通報して、あいつらには撤退のタイミングを伝えるんだよ」

「へぇ、戦力外の奴でも使い様があるんだな」

「まぁな」

思う存分暴れることができたのがうれしかったのか、追い続けた獲物が捕えられてうれしいのか、とりあえずものすごく上機嫌な族長。

桜桃としても、友人の敵がとれただけでなく、警察が検挙までしてくれるようなので安心したのだが・・・・・・やはり、少し、不満は残る。

 

 

 

 

 

「なんで私にも知らせなかったんだよ?私の友人も被害にあったんだから、私だって参加する権利はあったはずだ」

「あー・・・事前情報だと、あの連中、色々と物騒なもんを持ってる感じだったからな〜・・・。さすがに一筋縄じゃいかないし。大事なオジョーサマになにかあったら、あのドーベルマンみたいなお守役に何を言われるやら」

「・・・それって松田のことか・・・。・・・でも、私だって思う存分、暴れたかった・・・」

「敵打ちじゃなくて、そっちかよ」

 

 

 

 

 

なんだかんだ言っても、彼はものすごく晴々とした表情をしていた。

桜桃もそんな彼の態度につられて、呑気にその場で会話をつづけていた。

だから、お互いにいつもなら気をつけていたことも、油断してしまっていた。

それを後に、悔いることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、こちら待機中の里井くん。

警察も通報し、『紅蓮』の仲間も呼び戻し、彼の本日の任務は終了である。

「あとは、打ち上げの準備をしないと」

 

 

おそらく、高確率で族長がネコお嬢さまを拾っていると確信している里井くん。

だから、彼女の分も用意して。

 

 

 

今夜の打ち上げパーティーには彼女も必ず参加する・・・というよりは強制参加させられるに違いないと容易に予想できている里井くんは、もはやしっかりと族長とネコお嬢さまの性格を把握済みなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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今回のケンカに関する展開は色々考えていたのですが、こうなりました。

きっと、族長はネコお嬢を巻き込みたくはないでしょうしね〜。

 

里井くんが意外と今回は腹黒くてびっくり(笑)

あの族長についていくのだから、やっぱり腹黒くないといけないんですかね(笑)

 

 2011.1.16

 

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