「なんで、私はここにいるんだ?」
「オレが連れてきたからだろ?」
「だから!!なんであんたが私をここに連れて来たんだっての!!」
「それはホラ、人生経験ってやつ?」
「はぁ?!」
「こういうトコ、来たことないだろ?だから、人生経験」
「・・・・・・バカにしてんのか?!」
「じゃぁ、来たことあるのか?」
「・・・ないけど」
「んじゃ、オレの方が合ってるじゃねぇか」
3、水は方円の器に随う
あ〜・・・・・・暇だ。退屈だ。
な〜んかおもしれぇことないかなぁ〜。
「・・・・・・とかんなんとか、思ってませんよね、この状況で。族長?」
耳障りなエンジン音をBGMに、子分が彼にそう尋ねる。ジト目でそんなことを尋ねてきた子分に、彼はニッと笑い返した。
「あ?なんでわかった?」
「・・・・・・族長、今の状況で、なんで退屈だとか思えるんですか・・・・・・」
「退屈なもんは退屈なんだよ。仕方ねぇだろ」
勢いよくバイクを走らせながら、彼はそう答える。それを追うように走らせる子分は、半ばやけくそな状態で後ろを指さして叫んだ。
「こんなに敵陣が追ってきてるのに、退屈とか言っている場合じゃなくないですか?!」
そう、只今、彼らは逃走中。というよりは、激走中。
彼が統率する暴走族『紅蓮』は、このあたり一帯を締める族。この辺りもテリトリーにしたいと領域を広げようとする奴らや、はたまた『紅蓮』と陥れようとしている奴ら、『紅蓮』そのものを消し去ろうと目論む奴らなど、彼らの前には敵が絶えることがない。
そして今日もまた、族長とその数人の子分は、複数の敵に追い回されていたりする。
「あ〜・・・なんか、逃げるのもかったりぃな。ここらでケリつけようぜ?」
「りょ〜かいしました、族長!!」
喧嘩上等。
族長の一声で、追われる側だった彼らは一気にやる気になる。すでに仲間にも連絡しているから、合流地点で一気に奴らとケリをつけられそうだ。
一気に加速してその場所へ奴らを誘導しようとはりきる子分の横で、ふと、彼の視界に面白いものが目に入った。
・・・あ、あれって・・・・・・。
「おい」
「は、はい?」
いきなりバイクを走らせながら横につけられた子分は、族長のウキウキした声に内心驚きながらも返事をする。
「オレ、ここでバっくれるから、てめぇらであいつら、なんとかしとけ」
「へ、えぇ?!」
「なんだよ、できるだろ?」
「そりゃ・・・・・・できますけど・・・・・・族長はどこへ?」
「ヒミツ」
じゃぁな、と言い残して、彼は経路を変更してしまう。
我らの族長が愛して止まないのは喧嘩だ。
そりゃもう、相手をこれでもかとボッコボコにしているときの族長の表情はそれはそれは楽しそうである。
だから、こうして敵陣に追われるのも、窮地に追い詰めてやり返すのも、退屈だと言いながらも結構彼は楽しんでいるのを子分たちは知っている。
結局、派手に喧嘩ができるから。
にもかかわらず、その喧嘩できる状況を放り投げてまで、族長は何を思いついたというのだろうか。
・・・・・・深追いは禁物である。
とりあえず、族長だけが経路を変更したことに気付いた後方の奴らの数人が、族長を追いかけようと進路を変えようとしている。
無論、子分たちはそれを阻止すべく、バイクでのバトルを開始しようとしていた。
族長の邪魔は決してしてはいけない。
ここは身を呈してでも、邪魔者は排除すべし。
これは、彼らの今までの経験上からしても、絶対に実行しなければならないことだった。
健気な子分たちが奮闘しているその最中、当の族長である彼はというと、先ほど見かけた目的のものを追いかけていた。
「お、み〜っけ」
見つけた途端、バイクを走らせながらソレを拾い上げる。まるで、モノのように。
「ちょ・・・・・・!!」
すぐさま拾い上げたモノから抗議の声が出かかるが、なにぶん、バイクは走行中だ。
「そーそー。舌噛んじまうといけね〜から、黙ってるのがいいぜ〜」
なにやら上機嫌で、族長はソレを抱えたままバイクを走らせる。赤信号に差し掛かったところで、ようやくソレを後ろに座らせて、相手が何かを言う前に再びバイクを走らせた。
信号は無視で。
「・・・っこら!!!ナニ考えてるんだよ!!」
ところが、バイクの後部座席という、抱えられている状況よりは安定した場所に落ち着いたソレは、族長の背中をバンバン叩きながら抗議してくる。
無論、片腕はバイクから落ちないように、族長の胴を捕まえているが。
「あ〜?聞こえねぇ〜な〜」
実際バイクのエンジンの騒音のせいで、たしかに声は聞こえ辛い。会話などできるような状況ではない。
しかし、これは族長の確信犯だったりもする。
「てっめぇ、いい加減にしろよ!!いいから降ろせ!!止めろ!!」
「い〜トコ連れてってやるから、乗ってろって、お嬢サマ?」
族長は喉の奥で笑いながら、先ほど拾い上げたお嬢サマに声をかけた。そのお嬢サマは、すでに諦めたのか、それからムっとしたまま沈黙を貫いた。
思わず、お嬢サマの口から洩れたのは、ため息。
「なんで、私はここにいるんだ?」
「オレが連れてきたからだろ?」
「だから!!なんであんたが私をここに連れて来たんだっての!!」
「それはホラ、人生経験ってやつ?」
「はぁ?!」
「こういうトコ、来たことないだろ?だから、人生経験」
「・・・・・・バカにしてんのか?!」
「じゃぁ、来たことあるのか?」
「・・・ないけど」
「んじゃ、オレの方が合ってるじゃねぇか」
ズルズルっと麺をすすりながら、彼は器用に肩をすくめる。
ふたりは今、いわゆるラーメン屋(いわゆるもなにもない)にいる。
間違ってもお嬢様学校に通うような彼女が入るような綺麗な店とは180度異なる、小汚いラーメン屋だ。しかも、カウンター席しかないほど狭い。
「だと思ったんだよな〜。ぜってー、ネコお嬢はラーメン屋行ったことないって」
「・・・うるせぇな、用がないんだから行くわけないだろ?」
「でも、ウマいだろ?この店のラーメン、店が汚いくせにウマいんだよ」
「余計なひと言はいらないぞ?」
「あ、聞こえてた?」
彼がラーメンをすすりながら言う言葉に、すぐさま店長が突っ込みを入れる。そんな親しいふたりの会話を聞きながらも、彼女は遠慮がちにラーメンを啜ってみる。
「・・・あ、ウマい」
「だろ?」
「・・・・・・つぅか、なんで、私はここにいるんだよ?!」
「なんだよ、また同じ話繰り返すワケ?だから、人生経験だろっての」
「そうじゃなくて!!なんで、フツーに帰路についてた私を、バイクに乗ってたあんたが突然拉致ったのかっての!!」
「あ〜・・・・・・おもしろそうだったから?」
「・・・疑問形かよ」
「い〜じゃん、退屈してたんだもんよ、オレ」
「知らねーし、関係ねーし」
ぶちぶち文句を言いながらも、お上品にラーメンをすする彼女に、ふと、彼は尋ねてみる。
「なーなー、ネコお嬢。なんでアンタ、そんなんなんだ?」
「は?脈絡もない聞き方するなよ」
「染み付いてるもんも、学校にいるときも『お嬢様』なくせに、オレの前だと巨大猫がとれてるよなー」
「・・・なんであんた相手に、猫被らなきゃならないのか教えてほしいけど?」
「相手選ぶってやつ?」
「あったりまえ」
「ふーん。で、オレは地でいいと分類されたわけか?」
「あんたらみたいな喧嘩上等の奴ら相手に猫なんざいらないだろ?」
「そりゃごもっとも」
頷いて笑って、族長は残りのラーメンを啜る。
「それにしても結構よく会うよな。ネコお嬢はお迎えとかナイワケ?」
「・・・なんだよ、さっきからそのネコお嬢って」
「ん?あだ名?」
「名前教えたろ?それともまた忘れたのかトリ頭」
「んだと?誰がトリ頭だ、こら」
「あんただよ。3歩歩いたら忘れるトリバカ頭だろ」
若干険悪ムードになってきたふたりは、なぜか同時に席を立つ。
「・・・帰る」
「送ってやってもいいぜ?どーせ、どっかのでかい家なんだろ?すぐ見つかりそうな」
「・・・・・・結構ですわ。迎えが参りますし」
即席で猫を被ってみせた彼女に、彼はふん、と鼻を鳴らした。
「あっそ。じゃ〜な。ゴキゲンヨウ」
「ゴキゲンヨウ」
互いに棒読みの別れの言葉を告げて、店を出る。
・・・・・・ちなみに、ラーメンの勘定はどうなったのかは、聞かない方がいい。なぜなら、ふたりとも財布を出していないから(おや?)
しかし、その謎はすぐさま解明される。
ブルブルとズボンのポケットに入れたままの携帯が震える。もはや見慣れた番号からのお呼び出しだ。
「・・・はい、里井です」
「コラ。てめぇのとこの族長、また食い逃げしたから払いに来い。2人分だ」
「・・・・・・ハイ・・・」
そして、里井くんはわずかな休憩時間も切り上げて、財布を持って立ち上がる。
族長の常連の店であるラーメン屋に、『いつものように』ツケを払いに。
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一気に3話分更新してみました。
続きは・・・・・・いつですかね?最低月1、というゆる〜い目標をたててますが、ネタ次第です(笑)
他の小説を書くときは、紫月は何話分かストックを用意するのですが、このシリーズに関しては、ストックなしでやろうと思っているので、ひたすら思いつきで更新します(笑)
そんなわけで、紫月が飽きてしまったら打ち切る危機さえあるので(笑)、感想やネタなどいただけるとうれしいです♪
そして、なんとな〜く、里井くんの立ち位置がわかってきました?(笑)
2010.6.20