「・・・なんでいっつも私が喧嘩してるときにあんたは現れるんだよ?」
「さぁな〜喧嘩がオレ様を呼んでるんじゃね?」
「わけわかんねぇこと言うな、このトリ頭」
「つぅか、ほんとにネコお嬢ってば、助けてやったってのに礼ひとつもなしに文句ばっかてどうよ?」
「助けてくれなんて言ってないだろ?」
「あのまんま放っておいたら、さすがに喧嘩好きのオジョーサマでもやばかったと思うけど?・・・だから、メシオゴレ」
「・・・・・・意味わかんねぇっての、このトリ頭」
5、三人寄れば文殊の知恵
最近、どうも変なグループがこの辺りをふらふらしている。
別に勝手にふらついてるだけなら構わないが、それが彼のシマを荒らし始めたとなったら話は別である。
加えて、「文句があるならかかってこい」という喧嘩文句つき。
普段、面倒で面倒で、あまり表立ってグループ同士の争いに手を出すこともない彼――――――このシマを締める族長だったが、売られた喧嘩は高価買取。
コレ、常識。
そんなわけで、族長はイライラをあからさまに表面に出しながら、その喧嘩を売った張本人を探していたりする。
だが、雑魚どもがちょろちょろしているだけで、肝心の張本人が見つからない。
それが一層族長のイライラを増長させていた。
「・・・・・・オイ、族長、日に日に機嫌が悪くなってないか・・・・・・?」
「・・・わかってるよ。でもほら、なかなか見つからないし・・・・・・」
「この前も結構いい具合に色々な連中に絡まれたってのに、結局雑魚ばっか手下ばっかだったもんなぁ〜」
「・・・そいや、あのとき通り過ぎたあのオジョーサマって、族長のなんなんだ?!」
「・・・・・・知り合い・・・みたいだったよな・・・?」
「でもあのオジョーサマもSG女学院の制服着てる割に、全然オジョーサマじゃなかったぜ・・・?」
ひそひそと交わされる、族長の子分達の会話。
彼らもここらを締める暴走族『紅蓮』の一員として、イライラ最高潮の族長と共に裏道をつらつらと歩いているわけだが、どうも最近、うるさくうざいのを片っ端から片づけて回ってしまったせいか、今日は人っ子一人すれ違わない。
そんなわけでちょっと気の緩んだ彼らは、族長も参加した先日の大乱闘のことを話題に話しこんでいた。
あの日は結構な大乱闘が繰り広げられ、それはそれは楽しそうに我らの族長さまは喧嘩をしていたのだが、ちょっとひと段落したところで、ありえない光景を彼らは見たのだ。
SG女学院のオジョーサマが、我らの族長さまとフレンドリー(?)・・・いや、ものすっごく慣れ慣れしく話していたのだ。
・・・ありえない。
なんであの超お嬢様学校の制服を来た生徒と、『紅蓮』の族長が知り合いなのだ・・・・・・。
ここ最近ずっと機嫌の悪い族長に誰も尋ねられずにいたのだが、じつは『紅蓮』のアジトの中では、その『謎のオジョーサマ』のことで話が持ち切りだったりもする。
なにが伝説的にすごいって、あの族長にタメグチだけにとどまらず、嫌味やら暴言やら吐きまくりだったのだから、あの少女は・・・・・・。
そしてその族長もそれを当然のようにスルーしていたのだから、彼らにとっては益々謎。
・・・それでも、今回の『高価買取の喧嘩』が結末を迎えない限り、族長の機嫌も直らないので、それまで聞けそうにはないのだが・・・・・・・・・。
「・・・・・・ん?なんか聞こえねー?」
やたらと五感が鋭い族長がふと立ち止まって、後ろを歩く子分たちに尋ねる。尋ねられた彼らもまた、族長と同じように立ち止まって耳をすませてみる。
「・・・・・・聞こえませんが・・・・・・」
「そうか、じゃぁ、そこで待ってろ」
あっさりと言い捨てると、素早く族長はいずこかの方向へ駆けだしてしまう。
「あ、族長?!」
単独行動大好きな族長さまは、時々こうして子分である彼らを置いてひとり駆けだしてしまうことが多い。
・・・そして、その後、アジトで「なんで追いついてこなかったんだ!」とお叱りを受けるのだ。
「・・・とりあえず、追いかけよう」
「おう!!」
どうせ俊足の族長さまに追い付くことは不可能だけれども、とりあえず向かうことには意味はあるかもしれない。
なんだかんだと族長を慕って止まない彼らは、横暴なまでのオレ様族長を追いかけて、すでに影もなくなってしまった方向に向かって走り出した。
彼が聞きつけたのは、鉄パイプが壁にぶつかる、独特なあの音。
あれは意外に遠くでも響く。
最近ここらで好き勝手にふらついていやがるグループは大概潰したと思っていたが、まだそんなちゃちな獲物を振り回して喧嘩してるバカが残っていたらしい。
それにしたって、せっかく『紅蓮』の族長がわざわざ動いてバカの掃除をしているというのに、肝心の族長に喧嘩を売ったバカの総大将が顔を見せないのでは彼の鬱憤も晴れぬというもの。
売られた喧嘩を買わずにいるなど、彼の中では言語道断。
「オラオラ、さっきの威勢はどーしたよ、おじょーちゃん」
「・・・・・・うる・・・せーよ・・・・・・!!」
鉄パイプがぶつかる音と共に、聞こえてきた会話。バカっぽい男の声は知らないが、それに答える弱々しい少女の声には、聞き覚えがあった。
少し足を速めてその声が聞こえた路地を見れば、そこですでに始まっていた乱闘。
何人かはすでにノックアウト済み。
それから鉄パイプ持った男数人と・・・・・・・・・見知った少女が、向き合って牽制しあってる。
「ほらほら、もう後がないぜ〜?」
なにがどうなってこんなことになったかは知らないが、じつに楽しそうに少女を追い詰めるバカ男共。
さすがに獲物を持った男たち相手には苦戦したのか、喧嘩好きのその少女は、肩で息をしながらじりじりと後退する。バカ共が言うように、後退し続ければ壁しかない。
が。そんな一見危機的な状況をぶっ壊す声が飛んでくる。
「あっれ〜?ネコお嬢じゃん?何してんだよ?」
「・・・・・・げ。会いたくないヤツが来た・・・・・・」
「ご挨拶だな、オイ」
少女・・・・・・『清楚なお嬢様』という分厚い猫を何匹も被って生活している、じつは喧嘩大好き『ネコお嬢』は、族長の姿を見ると、心底、そう、本当に心の底から嫌そ〜にそう呟いた。
「・・・なんだぁ、テメー」
「これからこの生意気な女をいただこうかってときに・・・・・・」
「こんな女、いただいてもネコの毛皮の味しかしねぇと思うけど?」
バカ共の文句さえ遮って、すでにファイティングモードに入った族長が不敵に言ってのける。
「・・・・・・んだと?てめぇ、いきなり出てきてなんなんだ?痛い目見るぞ」
「おーおー、イタイ目見させてくれるなら、見せてくれよ」
「・・・・・・てめぇ・・・・・・オイ、やるぞ!!」
掛け声と共に始まった、少女を無視したバトル。
片や武器ひとつ持たず、たったひとりでニヤニヤと笑っているトリ頭男。(←ネコお嬢視点)
片や鉄パイプを振り回して、自分たちが一番強いかのように勘違いしているバカ男共数人。(←ネコお嬢視点)
バトルの結末はあっさりと訪れた。
「なんだよ、口ほどにもねぇ連中だな」
大変大変未消化といった様子で不満そうに吐き捨てたのは、『紅蓮』の族長。足元には、先ほど彼に啖呵を切った男たちの躯(!)が転がってる。
彼らのバトル中、完全に無視されていた少女は、すでに整った呼吸で、嫌そうにわざとらしくため息をついた。
「・・・なんでいっつも私が喧嘩してるときにあんたは現れるんだよ?」
「さぁな〜喧嘩がオレ様を呼んでるんじゃね?」
「わけわかんねぇこと言うな、このトリ頭」
「つぅか、ほんとにネコお嬢ってば、助けてやったってのに礼ひとつもなしに文句ばっかてどうよ?」
「助けてくれなんて言ってないだろ?」
「あのまんま放っておいたら、さすがに喧嘩好きのオジョーサマでもやばかったと思うけど?・・・だから、メシオゴレ」
「・・・・・・意味わかんねぇっての、このトリ頭」
「わかんなくねぇだろ?義理人情は喧嘩愛する者たちにはジョーシキ。なぁ?」
「・・・・・・・・・そりゃ・・・・・・な」
「んじゃ、お礼は期待してねぇから、金で解決しようぜ」
「・・・それ、カツアゲだろ」
「違うって。お礼だろ」
「でもおごらせるんだろ?」
「お礼だからな」
「・・・・・・なんか、あんたと話してるとアタマ痛くなってくる・・・・・・」
「ソレはタイヘンだ。さぁ、メシに行くぜ!!」
「・・・・・・好きにしろ・・・・・・」
どうあがいても彼女におごらせる気満々の族長に、とうとうネコお嬢の方が音を上げた。
「・・・おごるなら、この前のラーメン屋な」
「はぁ?!オジョーサマのくせに、そんなケチケチしたこと言うなよ?!」
「あんたにはその程度でいいんだよ。分相応って言葉を覚えろ、トリ頭」
「・・・仕方ねぇ〜なぁ。今回はそれで手を打ってやるか」
「・・・今回はってなんだ・・・・・・?」
「ホラ、もたもたすんなよ、ネコお嬢。あっちにバイク置いてるんだ、行くぞ〜」
「・・・・・・ハイハイ」
そんなにラーメン屋がうれしいのか、おごりなのがうれしいのか、なぜか上機嫌でスタスタ歩き始める族長。
すでに猫は脱皮し一匹も抱えていない『お嬢様』は、ため息を何度もつきながら、それを追った。
それからしばらくしての『紅蓮』のアジト。
族長のいないそのアジト内で、『紅蓮』のメンバーが集まって会議(!)をしていた。
「・・・・・・なぁ、いったい、あのオジョーサマはなんなんだ?!」
「今日なんてあの族長が喧嘩の助太刀して、しかもそのまま一緒に出かけちまったんだぜ?しかも、機嫌も急上昇」
「ま、まさか、族長の女・・・・・・?!」
「・・・・・・・・・って、雰囲気だったか・・・・・・?」
「「「「「全然!!」」」」」
彼らは、なんとか独走してしまった族長に追い付いて、見てはいけないような光景を見てしまった、本日族長と共に裏道を歩きまわっていた『紅蓮』メンバー。
例のオジョーサマとバイクでどこかに行ってしまった族長を影から見送ってから、慌ててアジトに戻り、緊急会議となったのだ。
・・・なんの会議かは不明だが。
「・・・おい、里井はなにか、族長から聞いてないのか?」
「いえ、そんな女性の話は、今初めて聞きましたよ?」
メンバーのひとりが、族長専属のお世話係である里井くんに尋ねてみるが、彼から返ってきたのは期待外れの答え。
「・・・・・・う〜ん、族長とあのオジョーサマ・・・どんな関係なんだ?」
「里井、族長に聞いてみてくれよ」
「・・・・・・僕が・・・ですか・・・?」
「そー。やっぱ、族長のこと突っ込めるのはオマエだけじゃん?」
「お、それいいな!里井、頼んだぞ!このモヤモヤを晴らしてくれ!!」
「そうだそうだ!!がんばれ、里井、おまえにオレたちの未来がかかっている!!」
「え〜?!そんな、横暴な〜・・・・・・」
急にノリノリになって里井くんを持ちあげる『紅蓮』メンバー。
そんな里井くんは、相当面倒なことを押しつけられ、途方に暮れていたりした。
けれど、これを実行しないことにはこのメンバーも納得しないことは百も承知していたし・・・・・・なにより、その真相は里井くんも気になっていたりはする。
・・・族長に新たな女疑惑か。
その真相は、里井くんに委ねられた。
++++++++++++++++++++++++++++++++++
今回は『紅蓮』メンバーからの視点が主で。
前回の族長とオジョーサマの遭遇が、彼らにはなかなか衝撃的だった様子。
さて。
そろそろことわざネタが尽きてきそうな(笑)
しかし、次回、里井くん族長に真相を尋ねることができるのか?!?!
ラーメン屋でのふたりを書くべきか、普通にスルーすべきか、じつは悩み中だったりします(笑)
2010.7.25