「・・・で。聞きたいことあんだけど?」

「は?オレにはないぜ?」

「そーだろうな。あんた、いつ私の番号知ったんだよ」

「あぁ、ケータイのか?そんなん、どーでもよくね?」

「よくないな」

「なんだよ、心が狭いな〜ネコお嬢は」

「そーゆー問題じゃないだろ?訴えるぞ、コラ」

「アンタ、オレに隙だらけだろ?身に覚えあるんじゃね?」

「何言って・・・・・・・・・。・・・まさか、この間のラーメン屋・・・?」

「そゆこと。隙だらけの荷物から、ちょ〜っとケータイ拝借しただけだぜ?」

「・・・私の番号なんか知ってどうするつもりだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

6、正鵠を射る

 

 

 

 

 

 

 

いつも通りに学校生活を終え、いつも通りに帰り支度をしていると、桜桃に寄り添うように、すすす、と数人の友人が彼女の周りを取り巻いた。

「一ノ宮さん、先日、わたくしたちとてもおしゃれなカフェを見つけたのですよ」

「もしも一ノ宮さんが今日ご用事がなければ、ご一緒にいかがかしらと思いまして」

にこにこと悪意のない笑顔を向けてくるお嬢様友人たち。

無論、絶賛被り猫増量中の桜桃も、負けじとお上品な笑顔を張り付けている。

が、心中はたった一言。

 

 

 

 

めんっどくせーーー!!!

 

 

 

 

 

しかし。

ここで面倒くさいからと言って無下に断ってしまうと、それはそれで『お嬢様・一ノ宮 桜桃』としての体裁が保てない。

付き合いの悪いお嬢様、というのも、どうにもいただけないわけで。

加えて、親の財閥同士の絡みもあるから、そうそう断るわけにもいかなくて。

 

 

 

しょーがない。

今日は猫で肩こりになることを覚悟しながら、付き合うか、と腹を括って、にっこり『お嬢様スマイル』でお返事をしようとした瞬間、彼女のカバンから携帯の呼び出し音が鳴った。

 

 

 

 

「ごめんなさい、失礼いたしますね」

一言そう断って、携帯を取り出す。かかってきているのは、知らない番号から。

「ご友人の方からですの?」

「いえ・・・・・・知らない番号の方からみたいなのですが・・・」

「まぁ・・・!!出てしまって大丈夫ですの?!もしも怪しい方からのお電話だったら・・・・・・」

お嬢様友人Aが心配するのも無理はない。

 

 

 

彼女たちお嬢様は、幼いころからたびたび誘拐やらなんやらで悪人に狙われていることが多い。そのために、ボディガードなんぞもつけたりするのだが、それでもどうしても危険から逃げ切ることは難しい。

知らない番号から脅迫の電話がかかってくる、なんてこともしばしば。

だが一方で、知らない電話番号から救いの電話がかかってきたり、知らなかった情報が流れてくることもあるのである。

だから、一概に「知らない番号=悪い電話」とも限らない。

 

 

 

 

こんなとき、桜桃は迷いなく電話に出てしまうことにしている。

別に、脅迫の電話でも怖くはないからだ。

 

 

 

「・・・出てみますわ」

「大丈夫ですの、一ノ宮さん?わたくし、心配ですからそばでご一緒してますね?」

・・・いえ、ご一緒してないほうが話しやすいのですが。

 

 

 

桜桃を不安にさせないためであろうが、そばにぴったりとくっついてきたお嬢様友人ABの存在が、なかなか桜桃にとってはうざかったりする。

彼女たちの前で、増量中の猫を脱ぎ捨てるわけにはいかないからだ。

 

 

 

 

・・・脅迫の電話だったら、脅し返してやろうかと思ったけど・・・・・・できそうにないな。

 

 

 

 

気付かれないであろう程の小さなため息をついてから、桜桃は電話を耳にあてた。

聞こえた第一声は聞き覚えのある声。

 

 

 

『・・・おせー』

脳裏に浮かんだのは、喧嘩好きのトリ頭の馬鹿男。

『一体どんだけオレ様を待たせるつもりだったんだよ。オレ様からの電話は1コールで取れ、1コールで』

 

 

 

 

なんだかめちゃくちゃな要求をしながらわめいているその男の声を、心底嫌そうに聞いている桜桃。すでに猫が何匹か脱落している。

 

 

 

「あ、あの・・・一ノ宮さん?」

様子がおかしい桜桃に、お嬢様友人Bが話しかけると、はっと彼女は慌てて脱落した猫を拾って被る。

「・・・大丈夫です、知り合いからの電話でしたわ」

「そうでしたの、それはよろしかったですわ」

取り繕う桜桃の口調に、電話の向こうではトリ頭の爆笑している声が聞こえる。思わず電話を握る手に力が入ってしまったのは仕方ない。

しかも、知り合いからの電話だということで安心したのなら、さっさとここから離れてくれればいいのに、お嬢様友人たちは桜桃のそばから離れようとはしない。

 

 

 

 

・・・さっさと電話を切って、寄り道に付き合えってことか・・・・・・?

 

 

 

 

お嬢様友人たちのKYっぷりに頭痛がし始めたころ、さらに頭痛がしそうな声が電話の向こうから聞こえた。

 

 

 

 

『おーい、ネコお嬢、聞こえてるかー?』

「・・・・・・・・・聞こえていますわ」

『あっはっは!!只今ネコ被り中か〜!!』

「・・・・・・どのようなご用件でしょうか?」

『おー、そうだったそうだった。今からこっちに来い』

「は?!・・・・・・あ、いえ・・・・・・理由を伺っても?」

一瞬剥がれかけたネコを慌てて被りなおし、桜桃はトリ馬鹿男に理由を尋ねる。

 

 

 

 

『ん?たぶん、こっちに来ねーと、困るのはアンタだぜ?』

「・・・ですが、あいにくわたくし、今日は予定がございまして・・・・・・」

『あっそ?でもよ、なんかオレの子分たちがオレとアンタの関係をなんだか勘ぐっててよ?アンタがこっちに来て説明しねーと、たぶん、コイツら、変な勘違いしたまんまだぜ?』

「・・・・・・と、おっしゃいますと?」

『アンタがオレのオンナじゃね〜かって話になってるぜ?あ、ちなみに一応オレも否定したけどな』

トリ馬鹿男の衝撃な一言を聞いて一瞬固まった桜桃だったが、次の瞬間、力強く断言した。

 

 

 

 

「すぐに伺わせていただきます!!!」

 

 

 

 

 

そんな世も末な傍迷惑な勘違いされてたまるものか!!

 

 

 

 

そのまま勢いよく電話を切った桜桃の剣幕に、お嬢様友人ABが怪訝そうに尋ねてくる。

「・・・一ノ宮さん・・・?」

「・・・ごめんなさい、急用が入ってしまって、お誘いいただいたお茶にご一緒することができなくなってしまいましたの・・・・・・」

「まぁ、それは残念ですわ。急用というのは今のお電話ですの?」

「えぇ。知り合いがとても困っていまして、どーしても!!わたくしが行かないと、その場がおさまらないらしいので・・・・・・」

心底残念そうに、そして力強く理由を説明すれば、所詮は素直で人のいいお嬢様友人たちはすぐに快く頷き返してくれる。

 

 

 

「一ノ宮さんはとても頼りになるお方ですもの。色々な方に頼りにされていらっしゃるのですね。かしこまりました、お茶はまた別の機会にいたしましょう」

「ありがとうございます。それではごきげんよう」

「ごきげんよう、一ノ宮さん」

 

 

 

 

 

お嬢様友人たちと別れてすぐに、桜桃は誰もいない校舎の片隅で、着信履歴から最新の番号に電話をかけなおす。

 

 

 

 

『お?ネコお嬢?なんだよ、今更来ねーとかなしだぜ?』

「安心しろ。私のプライドと保身にかけて、ぜってーそっちに行くから」

『おんや?ネコがとれてるな?なんだよ、ご学友さまは一緒じゃね〜のか』

「誰が一緒に連れていくか!!・・・で。聞きたいことあんだけど?」

『は?オレにはないぜ?』

「そーだろうな。あんた、いつ私の番号知ったんだよ」

『あぁ、ケータイのか?そんなん、どーでもよくね?』

「よくないな」

『なんだよ、心が狭いな〜ネコお嬢は』

「そーゆー問題じゃないだろ?訴えるぞ、コラ」

『アンタ、オレに隙だらけだろ?身に覚えあるんじゃね?』

「何言って・・・・・・・・・。・・・まさか、この間のラーメン屋・・・?」

『そゆこと。隙だらけの荷物から、ちょ〜っとケータイ拝借しただけだぜ?』

「・・・私の番号なんか知ってどうするつもりだよ」

『そりゃもちろん、ネコ被ってるお嬢サマをからかうために決まってるじゃん?』

即答された答えにキレそうになる桜桃。

 

 

 

 

それでもなんとかなんとか押さえ込み、電話をした本来の目的を告げた。

「・・・で?私はど〜やってそっちに行けばいいわけ?」

『おぅ、迎えをよこすから、そいつと一緒に来い』

「なんだよ、呼び出しておいて、あんたが来ないのかよ?」

『あ、ナニ?オレ様じゃないとイヤって?』

「呼びだした張本人が足を運べって言ってんだよ」

『やだね、面倒臭い。オレが面倒臭いことをやるのが、子分の仕事』

「・・・哀れだな、あんたのとこの子分」

『ほっとけ。んじゃ、裏門あたりに迎えよこすからな』

「・・・ちょっとはマジメそうに見えるやつをよこせよ?」

『任せろ。ばっちりマジメ君をよこしてやる』

そう言って、電話は一方的に切れる。

 

 

 

 

 

 

・・・暴走族『紅蓮』に所属していて、真面目な奴なんているわけないだろうが。

そんなツッコミも、もはやあの迷惑トリ頭男には届かない。

 

 

とりあえず、その『お迎えの子分』と合流するために、桜桃は裏門に足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

一方、こちら『紅蓮』のアジト。

電話を終えた族長が、せっせと掃除中の子分を呼び掛ける。

「おい、里井」

「はい?」

「ネコお嬢を迎えに行って来い」

「ネコお嬢って・・・・・・噂のSG女学院のお嬢様の、ですか?」

「そー。てめぇらがぐちゃぐちゃうるせーから、呼び出してやったよ」

「へ〜・・・・・・。それでしかも、承諾したんですか、お嬢様が?」

「おうよ。来なかったらオレのオンナってことになるぜって言ったら、即答だった」

「・・・それって脅迫じゃ・・・・・・」

「いーんだよ。つけこめるもんはつけこんでおくのがオレのモットー」

「はぁ・・・・・・」

「んなわけで、SG女学院の裏門に迎えに行って来い」

「え?!でも、僕は彼女の顔がわからないんですけど・・・・・・」

「根性で見つけて来い」

「んな無茶な・・・・・・」

 

 

 

無茶でもなんでも、族長の命令には逆らえない里井くん。

哀れ、本当に迎えにいくお嬢様の顔もわからないまま、とりあえず、SG女学院の向かうことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そんなわけで、次回に続く(笑)

 

いよいよ里井くんと桜桃が出会うらしいのですが・・・・出会えるのか??

いや〜なんというか、族長と桜桃のフリーダムっぷりが書いていて楽しいです(笑)

 

剥がれては拾いあげて被る桜桃の根性あるネコたちも見事!!(笑)

 

 

さて・・・次回更新予定ですが、紫月は夏休みがあるわけでもないのに、「あたしの恋人」という連載小説のほうでイベントを始めてしまったので・・・・・・こちらの更新の目途はたってないですね・・・・・。

 

 

ま、気長にお待ちください(笑)

 2010.8.10

 

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