「なんで、あんなのを迎えに寄こしたんだよ?!」

「あぁ?!アンタが言ったんだろ、『真面目そうな奴』をよこせって。ご希望通りだろ?」

「それにしたって、こっちもあっちも面識ないのにうまく会えるわけないだろ!!」

「そうか?そうでもなかっただろ?」

「そうでもなくない!!」

「いんや、問題なかったみたいじゃねぇか。こうしてあんたがここに来れたってことはさ」

「・・・・・・それまでの私の焦燥を返せ」

「は?しょーそー?なに?」

「・・・はぁ。バカに塗る薬はないのかよ、ここには」

 

 

 

 

 

 

7、降れば必ず土砂降り

 

 

 

 

 

 

SG女学院の裏門に待機すること15分。

非常に困っていた。

 

 

裏門から出てくる女生徒はみんな、揃ってお嬢様に見えるのだ。

どー考えても、このお嬢様たちのなかに、うちの族長と縁のあるようなお嬢様は見当たらない。

 

 

 

「・・・どうしよ・・・・・・困ったな・・・・・・・・・」

 

 

 

族長のおつかいで、『ネコお嬢』のお迎えにやってきた里井くん。

ところが、彼はその『ネコお嬢』との面識がなく、彼女を探せずにいたのだ。

裏門に行けば会えるかと思いきや、どうやらこの学園のお嬢様は裏門でも其々のボディガードたちと待ち合わせをしているらしく、姿勢よく待ち人を待っているお嬢様で溢れているのだ。

 

 

 

こんな中で、族長の目当てのお嬢様など見つけられるはずもなく。

困り果てて、流れる冷や汗をハンカチで拭っていると、ひとりのお嬢様がこちらに向かってくるのが見えた。

 

 

 

清楚な顔立ち。

純白の白百合が似合いそうな雰囲気。

優雅な物腰。

まるでモデルのようなスタイル。

 

 

 

まさに生粋のお嬢様、と言うべきほどの美少女がこちらに近づいてきても、里井くんは見惚れているだけで何も反応を返せなかった。

問題の一言を聞くまでは。

 

 

 

 

 

 

「・・・あんたがトリ頭の子分?」

 

 

 

 

 

 

この瞬間、里井くんの脳内メモリーにあった、『お嬢様』の夢はがらがらと音を立てて崩れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「おい?どうした、大丈夫か?」

心配して声をかけてくれる少女の声は愛らしいのに、その口調が見事なまでに『お嬢様』というイメージを裏切ってくれている。

「ま、まさか違うのか・・・・・・!!」

何も言わずにその場に崩れる里井くんに、お嬢様が慌てた声で確認してくるのが聞こえてきた。見れば、心底焦った様子で取り乱していたが、すぐさま無敵素敵な笑顔をこちらに向けてきた。

 

 

 

「申し訳ありません、人違いをしていましたようで・・・・・・。無礼な態度をお許しくださいませ」

 

 

 

こちらがびっくりするくらいに完璧な早着替えネコ被り。

優雅な微笑みと共に、少し困ったように首を傾げて謝罪するその様子は、まさに里井くんが描いている『お嬢様』像そのもの。

うっとりと見惚れてしまう。

・・・先ほどの彼女の態度さえ見ていなければ。

 

 

 

 

「・・・あの・・・大丈夫ですか・・・?」

 

 

 

呆けたままその場に膝をついたままの里井くんに、『お嬢様』は声をかけてくる。

戸惑ったように、しずしずと。

 

 

 

・・・これって・・・・・・じつは、僕が探していたのはあなたなんですって言ったら・・・殺されるのだろうか・・・・・・。

 

 

 

 

ちょっと戦慄を覚えた里井くんだったが、しかし、いつまでもここにいるわけにはいかなかったので、『普通のお嬢様』なら知らないであろう単語を口にして、彼女が間違いなく族長の言う『ネコお嬢』なのか確かめることにした。

・・・現段階で、十中八九、彼女が『ネコお嬢』だと確信はできていたけれども。

 

 

 

 

「・・・あの、ひとつ伺ってもいいですか?」

「なんでしょうか?」

「・・・・・・えぇっと・・・・・・『紅蓮』って・・・・・・知ってます?」

恐る恐る尋ねてみる。

瞬間、訪れる沈黙。

 

 

 

それまで愛想笑いだったのだろうけれど、優雅に笑っていた彼女の顔が、ゆっくりと、まるでスローモーションの映像を眺めているかのようにゆっくりと、無表情に変化していったのだ。

それを目の当たりにした里井くんの恐怖といったらない。

 

 

 

「あ、あの・・・・・・」

「・・・・・・やっぱり当たってたんじゃねぇか、驚かせやがって・・・・・・!!」

 

 

 

 

すぐさま猫を脱皮されたお嬢様に、ものすごい目つきで睨まれ、思わずすくんでしまう里井くん。

口調も表情も態度も、あまりにも急激に変化しすぎです、お嬢様・・・・・・!!

 

 

 

「えと、すいません・・・」

「で?あんたがあのトリ馬鹿頭のところに連れてってくれる迎えの人?」

「トリ馬鹿頭・・・・・・・・・。・・・・・・族長のことですか・・・?」

「それ以外誰がいるんだよ?」

・・・いえ、わかりませんよ、普通は・・・・・・。

 

 

 

 

面識のないお嬢様を迎えに行けと命令してきた族長も族長だが、面識のないお迎え相手である里井くんに、カマをかけてきたお嬢様もお嬢様である。

加えて、人違いかもと思えば猫を被り、じつは当たっていたと気づけば即座に猫を脱ぎ捨てるという早技付き。

・・・・・・族長、この方、すごすぎです・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

「ほら、いいから早く連れて行けよ。いつまでもここにいたら目立つんだよ」

ここがSG女学院の前でなかったら、足蹴にされそうな勢いで、彼女は彼に命令してくる。

それがまるで彼が従う族長のように見えてしまうのだから、不思議である。

「で?どのバイクなんだ?」

「えっと・・・・・・バイクだと目立つかと思ったので、あの車で・・・」

里井くんが指さす方向には、ライトグレーのワンボックスカーが。

リムジンやらベンツやらのお迎えの車が並んでいるこの辺りでは、むしろ目立っている。

 

 

 

「ほぅ、車とは気が利くな。たしかに、この制服でバイクは目立つんだよな〜。なのにあのトリ馬鹿頭は、年中バイクの後ろに勝手に乗せやがって・・・・・・」

ぶつぶつと何やら族長への文句を始めたお嬢様。

とりあえず、里井くんはそれらの文句は綺麗さっぱりスルーすることに決めて、車のドアーを開けて彼女を乗せる。

 

 

 

「なぁ、あんた、私の顔、知らないんだよな?」

「え、あ、はい」

シートベルトを締めながら、里井くんはお嬢様からの質問にこくこくと頷く。

「だったら、なんであんたが来たんだ?あのとき、私の顔を見た連中はいるんだろ?」

「えぇっと・・・・・・」

 

 

 

お嬢様が言う「あのとき」というのは、おそらく、族長が加勢したという喧嘩のときのことだろう。

たしかに、そのとき彼女の顔を見たメンバーが、この『お嬢様』が族長の新たなオンナなのではないか、と騒ぎ始めたのだが・・・・・・。

 

 

 

 

「・・・族長が、僕に命令をされたので・・・・・・」

「はぁ?!アレの命令だからってわざわざ面識のない私を迎えに来たって言うの?!だったら面識のある連中をよこしたほうがいいんじゃないかって言えばよかったじゃないか」

「いえ・・・・・・族長の命令は絶対なので・・・・・・」

「・・・軍隊かよ・・・」

はぁぁぁぁっと大きなため息をつくお嬢様の前方で、里井くんはアセアセしながら車を発進させる。

「それにしたって、あんたが『紅蓮』の奴かわからなかったから、一瞬焦ったよ」

「す、すいません。ちょっと、驚いちゃって・・・・・・」

「驚いた?あぁ、あの学校の規模?それとも迎えの車たち?まぁ、バカみたいに派手だからなぁ、どっちも」

 

 

 

 

 

・・・いえ、あなたのギャップと変貌ぶりに驚いたんです・・・・・・。

 

 

 

 

とは、さすがに言えない里井くん。

「えぇ、まぁ・・・」と言葉を濁し、『紅蓮』のアジトに向かった。

 

 

 

 

 

 

そして、到着したアジトの外観や立地などには何の感想も抱かず、着いた途端彼女が言った言葉は、

「さっさとあのトリ頭のとこへ案内しろ」

といったもの。

アジトの中で待機していた『紅蓮』のメンバーは、噂の『お嬢様』に興味津々だったが、とりあえず里井くんは『お嬢様』の希望通りに、最初に族長の部屋に案内した。

「ここがトリ頭の部屋?」

「はい」

「あっそ。じゃぁ、もういいよ、ありがと」

ヒラヒラと手を振った彼女は次の瞬間、ノックもなしに扉を勢いよく開いた。

 

 

 

・・・・・・なんて命知らずな・・・・・・。

 

 

 

 

その場にいた里井くんを始め、その様子を遠くで近くで見守っていた『紅蓮』メンバーもぎょっとした。

だが、肝心の族長殿は、彼女が到着したことを察知していたようで、上機嫌な声で出迎えた。

 

 

 

「よぉ、遅かったじゃねぇか」

「なんで、あんなのを迎えに寄こしたんだよ?!」

「あぁ?!アンタが言ったんだろ、『真面目そうな奴』をよこせって。ご希望通りだろ?」

「それにしたって、こっちもあっちも面識ないのにうまく会えるわけないだろ!!」

「そうか?そうでもなかっただろ?」

「そうでもなくない!!」

「いんや、問題なかったみたいじゃねぇか。こうしてあんたがここに来れたってことはさ」

「・・・・・・それまでの私の焦燥を返せ」

「は?しょーそー?なに?」

「・・・はぁ。バカに塗る薬はないのかよ、ここには」

「薬箱なら下の階にあるぜ?探すか?」

「・・・・・・いっそ薬漬けにしてやろうか」

 

 

 

部屋に入れぬものの、開けっぱなしの扉から聞こえてくる会話は、もはや『紅蓮』メンバーには気絶もの。

あんなに猛絶に族長に毒を吐ける人間を聞いたことがない・・・・・・。

 

 

 

 

 

「お〜い、里井〜」

やがて、おもむろに族長からの呼び出しが部屋の中からかかった里井くん。慌てて部屋に向かう。

「は、はい」

「ご苦労だったな。なんかよくわからんが、ネコお嬢がキリキリカリカリしてるから、なんか飲ませて食わせてやれ。で、下の広間に集めていいぞ?」

「は、はい」

「あのなぁ、私が怒ってるのはお腹が空いてるんじゃなくて、あんたのことで・・・・・・」

「まーまー。『お嬢サマ』が体験していないよ〜なこともやらせてやるから」

「はぁ?!」

「早くしろよ、里井」

「は、はい!!」

「だいたいなぁ、あの男ばっかり使うってどういうことなんだよ、あんたは・・・・・・」

 

 

 

『お嬢様』の文句がまだまだ続く中、『紅蓮』メンバーは動き出していた。

1階の広間に『紅蓮』メンバーを集結させるために。

 

 

 

『お嬢サマ』に未経験なことを体験させる。

しかも広間で。

だとしたらアレしかない・・・・・・・・・!!

 

 

 

 

 

「オラ、里井。ぼけっとしてねぇでさっさと準備しろ」

「は、はい!!」

「里井っていうのか?い〜よ、あんたは動かなくて。勝手に私を呼びだしたトリ頭が動け」

「あぁ?!オレ様がわざわざ動くわけないだろ?何のための手下だ」

「おまえはどこぞの悪役か?!」

「悪役で結構。オレ様は最強の悪役になってやる!!」

「・・・・・・勝手にほざいてろ・・・・・・」

「里井、なに突っ立ってんだ。早く動け」

「おまえはそこを動かなくていい、里井」

「里井に命令するなよ、ネコお嬢。これはオレの特権だ」

「この世であんたが一番エライと思うなよ?」

 

 

 

 

なぜか里井くんの動向を巡って険悪ムードに突入したふたり。

どうしていいかわからない里井くん。

だが、やがてどす黒く険悪ムードになってきた部屋の中にいられなくなった彼は、逃げ出すようにして族長の部屋から飛び出し、初対面した『ネコお嬢サマ』のもてなしの用意を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 +++++++++++++++++++++++++++++++

おやおや、まだまだ続く様子(笑)

 

ネコお嬢と族長が会えば、話はトントン進むのですが、それまでが大変(汗)

それでもやっと、里井くんと桜桃が初対面してくれました〜!!

 

しかもさっそく小間使い・里井くんを巡ってバトルが(笑)

 

さて次回はアジトでの<例のアレ>をやるようなので・・・・・・『紅蓮』のメンバーがはりきることでしょう。

 

早く更新できるよう、祈っておいてください、とりあえず(笑)

 

 2010.8.28

 

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