「あ・・・・・・だめ・・・!!!」
「待ったはなしだぜ、ネコお嬢」
「でも・・・・・・んん・・・あぁ!!」
「ふっふっふ。さすがのネコお嬢も未経験なコトには手も足も出ないか?」
「・・・・・・はぁ・・・うるっさい・・・・・・!!」
「くっくっく。いいな〜ネコお嬢のその目」
「黙れっ・・・・・・トリ頭・・・・・・!!!」
8、百聞は一見にしかず
都内某所の雑居ビル。
暴走族『紅蓮』のアジトであるそこの広間で、『紅蓮』のメンバーは集まっていた。
彼らはいわゆる、野次馬というやつである。
だって、これを見ないでどうする?!
『紅蓮』で持ちきりの、「族長の新しいオンナ」かもしれない、噂のSG女学院のお嬢様が見れるのだ。
これを逃したら次はないかもしれないのだから、何が何でも見に行くに決まっていた。
すでに広間はそんな野次馬でぎゅうぎゅう詰めである。それでも、里井くんが用意した、族長お気に入りの『アレ』の準備は整っている。
「族長のアレを間近で見るのも久しぶりだよな?!」
「めったに見せてもらえないもんな〜」
「族長のテクについていけるヤツはなかなかいないしな」
「それがあのお嬢様を相手に見れるなんて、おれたちツイてるんじゃね?」
「未経験なお嬢様が族長にどこまでついていけるかだな〜」
「くぅ〜!!楽しみだぜ!!」
なんだか勝手に盛り上がっているギャラリー。
すでにギャラリーでぎゅうぎゅう詰めになっている広間に、桜桃と族長が現れると、たちまち、「おぉぉぉ!!」と意味不明な歓声が聞こえた。
「・・・・・・なんなんだよ、コイツ等」
「気にするな、害虫だ」
「・・・いや、あんたの子分だろ?そんな言い草するなよ」
自分のよき手足となってこき使っている子分を害虫呼ばわりした族長を、なぜか諌める形になった桜桃。
・・・・・・なんで、こいつらのフォローを私がしてるんだ?!?!
っていうか、このトリ頭が一番の害虫だろうが!!
「で?私に何をさせるつもりなわけ?」
「そりゃ、おもてなしだろ?」
「ギャラリーに囲まれてか?しかも、あんたさっき、体験したことないことがどうとかって言ったよな?」
「おう、里井に用意させたから、すぐに始められるぜ?」
ニヤニヤウキウキした様子の族長に、なぜか嫌な予感を隠せない桜桃。
加えて、なぜかうざったいギャラリーもそわそわうきうきしているように見える。
というか、絶対してる。
「・・・だから、なんなんだよ」
外野のうざい雰囲気に辟易した様子で、桜桃は傍らでニヤニヤと嫌味な笑みを浮かべる族長に話しかける。
「まーまー。そうカリカリするなよ。まだ食い足りなかったか?せっかく接待してやったのに」
「・・・あれがあんたの『接待』かよ」
「『お嬢様』にはわからねーだろうけど、あれがフツーの『接待』だぜ?」
「いや、絶対違うだろ」
この広間に来るまでに、桜桃は『接待』と称して、缶ジュースやら食べかけのツマミのようなものが差し出された。
あれが『フツーの接待』なものか。
いくらなんでも、それが違うことくらい桜桃だってわかる。
「・・・アレはあんたたちにとっての『フツー』の接待だろ?」
「だからそう言ってるだろ?」
「『フツー』の次元が違うんだよ、あんたらは」
「ネコお嬢に言われたくねぇなぁ」
軽快に笑いながら桜桃の言い分を綺麗さっぱり聞き流し、族長は野次馬をどかしながら広間の中央に向かう。当然、わけのわからぬまま、桜桃もそれに従うしかない。
そして、その先にあった物は・・・・・・
「・・・これって・・・・・・?」
「初体験ってやつだろ、ネコお嬢?」
初めて見るそれに戸惑う桜桃に、族長がニヤリと笑う。
「じ〜っくり教えてやるからな」
実に楽しそうに、彼は彼女にそう言った。
「あ・・・・・・だめ・・・!!!」
「待ったはなしだぜ、ネコお嬢」
「でも・・・・・・んん・・・あぁ!!」
「ふっふっふ。さすがのネコお嬢も未経験なコトには手も足も出ないか?」
「・・・・・・はぁ・・・うるっさい・・・・・・!!」
「くっくっく。いいな〜ネコお嬢のその目」
「黙れっ・・・・・・トリ頭・・・・・・!!!」
「ほ〜れ、ほれ、ちんたらやってるとクラッシュするぜ?」
「このっ・・・・・・あぁ!!!」
「あーあ。忠告してやったのに、クラッシュするの何回目だよ、ネコお嬢」
「うるせー!!!あんたが横でごちゃごちゃうるせーからだよ!!」
「あっはっは!!それにしたって、ネコお嬢ってば、あんまりにも力入れるから喘ぎ声がエロいのなんのって」
「喘いでなんかいないだろ、変態トリ頭!!」
ぎゃぁぎゃぁ喚きながら言い合う桜桃と族長を囲むギャラリーは、興奮と感動と畏怖と呆れと共に、小声で囁き合っていた。
「・・・でも、なんだかんだ、エロかったよな・・・」
「本人は、夢中になりすぎて独り言を言ってることに気付いてないんだろうな」
「でもよ〜、喘いでたよな」
「コントローラー握って、あれだけぜぇぜぇと肩で息する人間も初めてみたけどな」
「・・・・・・それにしても、だ」
「・・・あぁ・・・・・・」
「初心者相手に・・・容赦ねぇよな、族長・・・・・・」
「ほんとに・・・容赦なく叩きのめしたよな・・・・・・」
「族長、好きだもんな〜、このゲーム」
「古いゲームだけどなぁ〜」
「でも、族長の鮮やかなテクに勝てる奴がいないのも確かだよな」
「「「「うん」」」」
ギャラリーはそんなことを言いながら、同じものを見つめる。
その視線の先にあるのは、テレビゲーム。
誰もが知っているであろう、今はゲームする人も珍しい、「マ○オカート」のゲームだ。
そして族長は嬉々と、隣で対戦している桜桃をからかっている。
曲がりなりにも『お嬢様』である彼女は、やはりテレビゲームなどやったこともなく。
族長はそれを見越して彼女にコントローラーを手渡し、簡単な操作の説明をした後、対戦することになったのだ。
その「○リオカート」のゲームで。
あまりにも夢中になりすぎている桜桃は、コントローラーを握り締め立ち上がり、体を斜めにしたり横にしたりしながら力み、走行を邪魔するアクシデントに悔しさを滲ませて喘ぎ、思うように動かないことに苛立ちながら声を上げているのだ。
それが、何故か非常にエロく聞こえてしまう、『紅蓮』のメンバー。
そして、対戦中の族長は、初心者である桜桃には一切の容赦もなく、慣れたテクニックで彼女を追いこみ、勝利を得ていたりする。
「だぁぁ!!なんでこんなとこでスピンするんだよ!!もう1回だ、もう1回対戦しろ、トリ頭!!」
「や〜だよ。ネコお嬢弱すぎ。ウチの連中ともう少し練習してからオレに挑めよ」
すでに何戦目かの敗戦を終えた桜桃が叫ぶと、族長はべっと舌を出してコントローラーを投げ出してしまう。
そして早々と自室に帰ろうとしてしまう彼の背中に、『紅蓮』のメンバーのひとりが思わず呼びかけた。
「あ、あの、族長、やっぱり彼女は族長の新しい・・・・・・」
「あ?ネコお嬢がオレの新しいオンナかっての?それは・・・」
「冗談じゃねー!!なんっでこんなヤツ!!」
族長が答えるより先に、桜桃が声を張り上げて否定する。片手にコントローラーを握り締めて。放す気はないらしい。
「こんなトリ馬鹿頭と、なんで関わらなきゃならないんだ!!冗談じゃねぇ!!」
「・・・だってよ?いい加減わかったか、テメぇら?」
「「「は、はい」」」
「ネコお嬢は、オレのおもちゃなの。だから粗末に扱ったらタダじゃおかねぇぜ?」
ケラケラと笑いながら族長は姿を消してしまう。取り残された桜桃は彼のその発言に大声を上げて抗議する。
「な、誰がおもちゃだー!!こら、逃げるな、対戦しろーーーーー!!」
「・・・なるほど、『おもちゃ』・・・。なんか、納得・・・」
「うん、納得」
一方で口々に納得の声をあげて頷き合うのは『紅蓮』のメンバー。
そんなメンバーを桜桃は黙ってゆっくりと見渡した。
片手に握るコントローラーに力がこもっている。しかも、目は据わっている。
その目は獲物を探す目だ。
族長にコテンパンにやられたのが、相当悔しかったらしい。
やがて、ゆらりと動いていた桜桃の視線が、一点で止まった。
ごくり、と息を呑む『紅蓮』メンバー。
とてもこの辺り一帯を締める暴走族のメンバーとは思えないほど、桜桃の気迫に圧されてしまっている。
「・・・里井」
「え、あ、はい?!」
「対戦しろ」
「いや、えっと、あの、僕もこれは得意ではなくてですね・・・・・・」
「じゃぁ、得意なやつを用意しろ!!絶対あのトリ頭の鼻をへし折ってやる!!」
声高々と宣告するネコお譲こと、桜桃。
その桜桃の気迫と気合と根性に、なぜか『紅蓮』のメンバーが湧いた。
「よし、里井、おれがネコお嬢の相手になる!!」
「いや、おれもやるぞ!!」
「おれもだ!!」
かくして、ゲームといえばRPGがお得意の里井くんを無視して、桜桃を取り囲んで、「マ○オカート」の特訓が繰り広げられることになった。
そうして、RPG専門の里井くんはというと、白熱したゲームの特訓で喉が渇くであろう彼女のために、飲み物を用意するのであった。
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さて、このオチを想像できた方は何人いらっしゃるでしょう(笑)
まさかのテレビゲーム、しかも〇リオカートが登場!!(笑)
これって紫月の歳がばれますかね。
そんなこんなで、「アジトに初訪問!!」編は、これにてひとまず終了〜!!
『紅蓮』のメンバーとの初顔合わせと、里井くんが普通に登場できるようになってなによりだ(笑)
そうすると、文末に里井くんを登場させなくてもいいんですかねぇ・・・??
さ〜て、次回は何をしよ〜かな〜(笑)
2010.9.8