「・・・・・・ネコお嬢ってぜってー性格悪いよな」

「あら、それは私へのお世辞ね」

「いったいどうすりゃ、今の言葉が褒め言葉になるんだよ?」

「あらぁ?ごめんあそばせ、庶民のあなたにはわからなかったかしら?」

「・・・ネコお嬢、それじゃまるで、性悪女だぜ?」

「ふん、それくらい上等ね」

 

 

 

 

 

 

9、負け犬の遠吠え

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ちっ。今日もはずれか」

「なかなか尻尾出さないですね、族長」

今日も今日とてイライラ絶好調の暴走族『紅蓮』の族長。その傍らには『紅蓮』のメンバーたち。

 

 

 

彼らは、先日からず〜〜〜っと彼らに影から喧嘩を売り続けている連中の尻尾を掴んでやろうと、ひたすら街中を徘徊・・・・・・もとい、巡回しているのだ。

もともと族長は来るもの拒まず、去る者追わず、加えて面倒事は押し付けるな勝手にしろ、な性格なのだが、「ある一線」を越えると、それはすべてなかったことになる。

 

 

そして、その連中は、族長の逆鱗に触れるようなことをしでかしたのだ。

いや、現在進行形でしでかしているのだ。

 

 

 

ただのグループ同士の喧嘩くらいなら、族長自らが出てくるようなことはしない。

勝手にやってろ、と野放しにされる。

しかし、今回はそうはできない。

これだけ派手に『紅蓮』に喧嘩を売ってきたのだ。必ず高価買取をして仕返しをしてやるつもり満々である。もちろん、族長だけではなく、メンバーも。

連中のやり口は、まるでここら一帯をしめる暴走族『紅蓮』を小馬鹿にするかのようなのだ。

 

 

このやり方に短慮な・・・・・・いや、正義感の強い(・・・?)族長が見逃せるはずもなく。

なにがなんでも喧嘩を吹っ掛けてきた連中を引っ張り出してやろうと躍起になっているのだが、これがちっとも足跡をたどれないのだ。

 

 

こうなると、早々に喧嘩を買い取りたい族長としてはイライラが募るばかりで。

それだけでなくとも、余計なことを次々としてくれるその連中のやり口に、いい加減歯止めをしたいのだが・・・・・・。

 

 

 

「あー、クソ、ムカツク!!なんでアイツらは現れないんだよ!!」

「ぞ、族長、落ち着いて・・・・・・」

「落ちつけだと?!これが落ちつける状況か?!」

「あ、ほら、暑くなってきましたし・・・・・・今日はもうあきらめましょう?おれたちだけでもう少し巡回していきますんで・・・・・・」

 

 

 

暑さも相まってイライラが募る族長の扱いに、『紅蓮』のメンバーは大変困惑気味。

今年の夏は異常な暑さで、ただでさえ不機嫌な族長をさらに不機嫌にさせている。

そんな彼を気遣って、そしてそれ以上に自分たちの保身のために、族長をアジトで休ませようと提案する『紅蓮』メンバーその1。

その提案に、普段は様々な面倒なことはすべて人任せなのに対し、喧嘩に関しては他力本願を嫌う族長は一瞬眉を顰めたが・・・・・・

「・・・見つかったらすぐに連絡しろよ」

暑さに負けたらしい。

 

 

 

 

 

 

まるでシャワーでも浴びてきたかのように汗だくになった族長は、うだるような暑さの中、最近クーラーを設置したアジトに帰りつく。

だが、不思議といつもならうっとおしいくらいに集結して族長の帰りを待つ、待機組の『紅蓮』メンバーたちが来ない。

どっかに買い出しでも行きやがったのか・・・・・・?

首を傾げながら歩を進めると、そこで見つけた人物に声をかけた。

 

 

 

「おい、里井。奴らはどこに行ったんだ?」

「あ、おかえりなさい。外は暑かったでしょう?汗だくのままですと風邪ひかれますからまずは着替えて・・・・・・」

「・・・人の話を聞いていたのかな、里井クン?」

「は、はい、聞いてました・・・」

せっかく善意で風邪をひかないようにアドバイスしたのに、そんな里井くんの思いは完全に無視で、悪意100%の無敵な笑みで聞き返してくる族長。思わず、里井くんは首振り人形のように何度も首を縦に振る。

 

 

 

 

「広間にお客様がいらしているんですよ。それでみんな、そっちに集まっているんです」

「お客さまぁ?!誰だ、それ?」

オレ様の出迎えをサボるなんて、いい度胸じゃねぇか!!

ドカドカと怒りを足音で表現しながら、彼は広間に向かう。『紅蓮』メンバーの下っ端たちはよく広間にたむろしていることが多い。

だが、それでも族長がアジトに帰ってくれば、躾たわけでもないのに全員で出迎えに来たというのに。

それすら放っておかなきゃならねぇ上客なら、顔を拝んでやろうじゃねぇか。

 

 

 

すでに完全やさぐれモードの族長が不穏な空気を纏いながら広間に近づくと、扉が開いているのか、賑やかな声が聞こえてくる。

 

 

 

 

「あ、だめだ、そこは!!」

「おぉそうだ、イケイケ!!」

「ああぁぁぁ!!惜しい!!」

「おぉ〜!!新しいテクだ、新しいテク!!」

「すっげぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

「・・・ナニやってんだ、テメぇら」

 

 

 

 

盛り上がる広間に、冷ややかな族長のお言葉が。

ピタリ、とその場にいた者たちは動きを止め、途端に静かになる広間。

「・・・・・・お、おかえりなさい、族長」

「お、お、お疲れ様です」

「テメぇらは、オレ様自ら外回りをしている間に、この涼しい広間でゲームしてたってぇのか?あぁ?!いい度胸じゃねぇか」

「い、いえ、これは、その・・・・・・」

不機嫌オーラ丸出しの族長に、その場にいるメンバーはたじたじ、びくびく。

しかし、怯えと恐怖が広まりつつあった広間に、たったひとり凛とした声で族長に言い返す者があった。

 

 

 

 

「ごちゃごちゃうるせーよ。外回りはあんたが勝手にやってることだろ?それをコイツらに押し付けるなよ」

「・・・・・・なんでアンタがここにいるんだよ」

「ゲームやりに」

「はぁ?!」

「この前あんたに負けたゲームの特訓だよ。コイツらが色々教えてくれたんだぜ?」

「色々って・・・・・・・・・これが初犯じゃねぇのかよ」

「まぁね、あんたがいないだけで、あれから結構ここに来て特訓してたんだぜ?」

「おいおい、こんなゲームくらい買えるだろ、オジョーサマ?」

怒りと呆れを混じり合わせたような表情でため息をついた族長は、平然とした態度でゲームのコントローラーを握り締めるネコお嬢を見返した。

ちなみに、今日も立ちあがってコントローラーを握り締めている。

 

 

 

 

「バカ言え。こんなゲーム、あの家でできるわけないだろ」

「なんだよ、アンタは家でもネコ被ってんのか?」

「・・・ま、親の前ではイイコにしてるな。だからゲームなんざできねーんだよ」

「だったら諦めろよ」

「イヤだね。負けっぱなしなんて一番悔しくて寝れねーもん」

「人生諦めも肝心だぜ?ネコお嬢がオレに勝てる日なんて一生来ねぇから」

「ふん。それはやってみなきゃわかんねぇだろ。だからこうして特訓してんだから!!」

「ま、せいぜいがんばりたまえ?せめて座ってゲームができるくらいにはなれるといいな?」

ニヤリと笑って告げれば、なぜか対するネコお嬢も勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。

 

 

 

「へー?今日はまたズイブンとすさんでるんじゃねぇの、トリ頭?ここらを締める『紅蓮』の族長がこーんなガキでおバカなヤツだって知ったら泣く奴ら多いだろうな〜」

「・・・・・・ネコお嬢ってぜってー性格悪いよな」

「あら、それは私へのお世辞ね」

「いったいどうすりゃ、今の言葉が褒め言葉になるんだよ?」

「あらぁ?ごめんあそばせ、庶民のあなたにはわからなかったかしら?」

「・・・ネコお嬢、それじゃまるで、性悪女だぜ?」

「ふん、それくらい上等ね」

ふふん、と高慢に笑って見せる彼女の笑みに、とうとう族長がキレた。

 

 

 

 

「おい、テメぇら、いつまでそこらでゴロゴロしてんだ!!さっさと外回りしてこい!!」

「「「「は、はい!!」」」」

族長に怒鳴られ、慌ててバタバタとその場を立ち去っていく『紅蓮』メンバー。

それを恨めしそうに見るのはその場に残されたネコお嬢ただひとりだ。

 

 

 

 

 

「あ〜・・・・・・いなくなっちまった・・・。・・・せっかく特訓してたのになんで追い出すんだよ!!」

「うるせー。あいつらはオレの子分だ。オレの命令に従うんだよ」

「こんの・・・・・・!!ちょーっと気に入らないことがあるとすぐに八つ当たりなんて、性悪はどっちだか」

「ふん、そーんなにゲームが上達したけりゃ、オレ様が教えてやらなくもねーけど?」

腰に手をあててふんぞり返る族長に、あからさまにいやそ〜な顔を向けるネコお嬢。

「だーれがあんたなんかに。もういい、今日は帰る!!」

「今日は・・・って、また来る気かよ」

「当たり前。あんたに勝つまではここで特訓するんだからな!!それに、ここなら気取らずにいられるしな」

「・・・ここはアンタの休憩所じゃねぇっての」

「いーだろ、なんだって。ここに私を連れてきたあんたが悪い。んじゃ、ちょっと里井を借りるから」

さらっと言ってのけたネコお嬢の発言に、さらに族長は目を剥く。

 

 

 

 

「は?なんで里井?」

「なんでって、アレに家まで送らせるためだけど?」

「里井のやつ、ネコお嬢の家を知ってるのか?!」

「正確に言えば、家の近くまで、だけどな」

「・・・ったく、いつの間に。里井はアンタのアッシーじゃねぇんだぞ?」

「でもあんたのアッシーなんだから一緒だろ?」

「だーかーら。『オレの』アッシーなんだから、ネコお嬢のアッシーとして使うなっての。里井のアシが必要になったらどーしてくれんだ」

「なんだよ、おもちゃを取られたガキじゃあるまいし。トリ頭に従う手下はいくらでもいるんだろー?だったらそいつら使えばいいじゃねぇか」

「誰があんな下手くそなドライバーたちを使うか。だったらネコお嬢が使え」

「冗談じゃねぇ、あんな違法ドライバーども」

 

 

 

 

どうやら彼女も彼らをアッシーとして使ったことはあるらしい。

意見が一致したところで、何の解決にはならないのだが。

 

 

 

 

「ま、そんなわけで今日は帰るわ」

「へーへー、どうぞお好きに」

結局なぜかネコお嬢に負ける形になった族長。

どうやらネコお嬢の方も族長の扱いに慣れてきたか、彼を振り回してくるようになってきた。

今回はもう諦めることにしたらしい。

 

 

 

 

 

 

「なー、里井。トリ頭の追いかけてる連中ってそんなに難しい奴らなのか?」

帰りの車の中で、彼女はハンドルを握る里井くんに話しかける。

「そうですね・・・・・・。なかなか尻尾をつかめないようで、族長も焦っているようですけど」

「ふーん・・・。なんか、大変だな」

「おや、族長に同情してくださるのですか?」

バックミラー越しに里井くんは彼女に笑いかける。なんだかんだ言っても、このお嬢様は族長を労わってくれるのだろうか、と里井くんは思ったのである。

だが、当のお嬢様は、わずかも照れることもなくあっさりと返してきた。

「いや?あのトリ頭のイライラに八つ当たりされるあんたらが大変だな、と」

「・・・あ、なるほど・・・・・・」

確かに的を射ている発言ではある。

が、なんだろうか、この脱力感は・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

「ふっふっふ、だったら、トリ頭を慰めてやるためにももっとからかってやろうかな〜」

族長のイライラを弱点と思ったか、なぜかウキウキとうれしそうに言いだすお嬢様の発言に里井くんは冷や汗をだらだらと流す。

 

 

 

・・・できればそっとしておいてください・・・・・・!!

 

 

 

 

 

そんな里井くんの心中は『紅蓮』のメンバー全員の心の叫びであることにも違いないのだが、どうやらこの怖いもの知らずの猫被りなお嬢様には届かなそうだと、彼は早々に涙を飲んで諦めてしまうのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++++++++++++++

ネコお嬢、アジトにたむろする、の回(笑)

予定していたものと展開が変わってしまったのは・・・・・・ひとえにあのふたりが勝手に暴走したせいです(泣)

 

そんな「ネコ被りなお嬢サマ!」ですが、やっと行き当たりばったりというのを緩和するために、ちょっとだけプロットをたてました(今更)

 

なので、決まりました!!このシリーズは全〇話です!!

もしもそれで書き足りなかったら、拍手用の小話として番外編が作られるかもしれないですけど(笑)

 

・・・その前に全〇話を書きあげるまえに紫月が飽きたりして打ち止めたら・・・・・・そこで終わりデスネ。

えへへ、すでに前科が結構ありますし・・・・・・。

 

紫月が飽きて打ち止めしないように、どうかみなさん、応援お願いします〜(汗)(汗)

 

 

 2010.9.22

 

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