おもしろいもの見つけた!!

・・・そう思ったから追跡したのに、気づけばなぜか、追いつめられてた。

そして、なぜか、ものすっごく変な経験と気疲れをした・・・。

いまだに、彼らの正体はものすっごく不明というか・・・謎である・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

+好事、魔多し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネコを被ったお嬢様が、時々は本物のお嬢様になるように、暴走族としてヤンチャに活動する喧嘩バカな彼らもまた、時々は道端を歩くフツーの人になることもある。

それは一見すればあまりにも雰囲気が異なるので、それとは気付かない場合もあるが、しかし、うっかりとばれてしまうこともある。

彼女が彼を見つけたのもまた、そんな偶然のひとつからだった。

 

 

 

 

「あれ?あれって・・・・・・ヨシキじゃん?」

「んー?そうだっけ?でもま、ダカラドウシタって感じだけど」

 

 

 

 

駅前のロータリー前に停まった車の中。

車内の男女はある方向を見て、そんな会話を始めた・・・・・・のだが、すぐに彼女がキレた。

「別にどーもしないけど。アンタの下僕のひとりがいたから、教えてやっただけだよ。アンタみたいなトリ頭じゃぁ、自分の下僕の名前も顔も覚えてないだろうし?」

「所詮下僕なんだから、覚える必要ないし」

「そんなことしているから、バカが進行・繁殖するんだよ」

「脳活動の省エネだと言ってほしいね」

ふふん、となぜか勝ち誇ったかのように言う青年に対し、彼女は再度大きな溜息をついて返した。

そして彼女は、青年との会話を諦めて身を乗り出し、運転席に座る男に話しかけた。

 

 

 

 

「なぁ、里井ならわかるだろ?あれってヨシキだよな?」

「そうですね、ヨシキくんですが・・・・・・そのヨシキくんと一緒にいる女性はどなたでしょうね?一見すると大学生のようにも見えますけど」

「なぁに?!女子大生と歩いているだと?!下僕のくせに生意気な!!」

 

 

 

女子大生という単語にいきなり食いついてきたのは、後方シートで我関せずといった態度で座っていた青年だ。

俄然やる気になって、彼女たちが見ている方向を見つめる。

「しかもいい女じゃねぇか」

「女子大生って言葉にいきなり食いつくなよ、エロトリ頭。これだから単細胞は・・・・・・」

「おや〜、もしやヤキモチですかぁ、ネコお嬢〜?」

にやにやと笑いながらそう言った彼に対し、ネコお嬢と呼ばれた彼女はにっこりと可憐に笑った。

「あら、嫌ですわ。誰が誰にヤキモチなんて焼くとお考えですの、龍一さま?」

「・・・・・・名前で呼ぶなよ、ネコ被りなオジョーサマ!」

「・・・・・・どっちもどっちだと思いますけど・・・・・・」

「「里井、うるさい」」

運転手を務める青年がぽつりと呟けば、同じタイミングで後方シートに座るふたりに注意される。

こういうとき、やっぱりこのふたりの息はぴったりだなぁとハンドルを握りながら里井くんは思っていたりする。

 

 

 

 

 

龍一と呼ばれた青年は、里井くんの仕えている主であり、この辺り一帯を締める暴走族『紅蓮』の族長というある意味どえらい立場であったりする。

けれど、本当はその族長は、もうひとつのどえらい立場があったりするのだが・・・・・・その二つの顔を知っているのは、今のところ車内にいるこのふたりだけ。

一方、その隣で彼に言いたい放題言っているのは、財界を揺るがすほどの資産家、一ノ宮一族の一人娘、一ノ宮 桜桃お嬢様である。

 

 

そのお嬢様がなぜ、暴走族の族長と一緒の車の中にいるのかというと・・・・・・色々な事情をはしょれば、普段、彼女は『お嬢様』というネコを被っているのだ。それも一匹二匹ではなく、分厚い大量のネコを。

そのネコを被らずに素のままでいられる『紅蓮』のアジトが気に入って出入りしているうちに、族長と行動を共にすることが多くなったのだ。・・・・・・最近では、他の理由もあったりなかったりするのだが。

 

 

 

 

 

そして今、偶然にも里井くんの運転する車にどっかりと座っているふたりが発見したのは、その『紅蓮』に所属する高校生のひとり、ヨシキだった。

桜桃とすれば、ヨシキも例に漏れずに、『紅蓮』メンバーの愛すべきバカのひとりなので、彼女はしっかりと彼を記憶していたのだ。

そのヨシキが、見も知らぬ美しい女子大生らしき娘とふたりきりで歩いているではないか。

これはもう、『紅蓮』のメンバーを下僕として扱うふたりにとっては、一大事である。

あの娘がヨシキにとってどんな存在なのか、これは一度徹底して確認する必要はある。

これは好奇心ではない、義務なのだ。ヨシキを下僕として扱う者たちとしての。

 

 

 

 

 

「っていうか、アイツら呼ぶか?絶対おもしろがると思うけど?」

「あのバカどもを呼んだら、たちまち収拾つかなくなるだろうが」

身を乗り出して窓の外をおもしろそうに眺める『紅蓮』族長の傍らで、ネコお嬢様もまた、負けじと身を乗り出しながら首を横に振った。

あのお祭り大好き、喧嘩大好き、大騒ぎ大好きの連中に、このゆゆしき事態を報告すれば、矢のごとくたちまちこの場にかけつけて、大騒ぎしてヨシキを問い詰めるに違いない。

解決は早そうだが、そんなうるさい事態にされては、後々面倒だ。

それは避けたい。というか、困る。

ここは、自分が動いて確かめるしかない。

 

 

 

 

 

桜桃が車のドアに手をかけて降りようとすると、すかさず族長がその腕を掴んだ。

「何する気だよ、ネコお嬢?」

「決まってるじゃん?もっと近くで偵察しなきゃ、おもしろくないだろ?」

ニヤリと笑ってそう告げる彼女の姿に、資産家のお嬢様としての片鱗はどこにもない。

まさに分厚い何十匹にもわたるネコを脱ぎ去ってしまったあとの彼女の姿だ。

そして彼もまた、『紅蓮』族長としての顔で意地悪そうににやりと笑い返した。

「名案だ。オレも行く」

「え、えぇ?!おふたりとも車を降りられるんですか?!おふたりが車ででかけたいとおっしゃるから、車を用意したのに・・・・・・」

「予定は須らく変更されるものだ、里井」

なんだかもっともらしいことを言い残して、族長はさっさと車を降りてしまう。

 

 

 

ふたりが車を降りてでかけるというのなら、当然里井くんも同行しないといけない。

彼の主は族長だし、ネコお嬢さまにもしものことがあったら、彼女のボディーガードに何をされるか知れたものではないである。

・・・・・・まぁ、里井くんよりもある意味腕っ節が強いふたりなので、身の危険の心配はあまりないような気もするのだが・・・・・・。

 

さっさとヨシキのいる場所へとこそこそと向かって行くふたりの姿を追いかけながら、里井くんは心の中だけで、溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨシキってたしか住んでいるのは、この辺りじゃないんだよな?」

「さぁ?そうだっけ?」

「ほんっとに自分のこと以外に興味ないな、アンタは」

「オレのこと以外のデータは里井が覚えてるからいーの。な、里井?」

桜桃の問いかけに、他人事のように返してきた族長に彼女は脱力する。しかし、彼は特に悪びれる様子もなく、当然のように里井くんに話題を振った。里井くんもまた慣れたもので、小さく頷いて答えた。

 

「心得ておりますよ。・・・ヨシキくんは、ネコお嬢さまのおっしゃるように、住んでいるのはこの辺りではなく、2つ先の町なので少し離れてますね。『紅蓮』の管轄外の場所になりますね」

「ふーん?なんでアイツ、わざわざ『紅蓮』にいるんだ?だったら地元の賊に入ればよかっただろうに」

「トリ頭・・・・・・仮にも族長という立場でありながらその無責任発言は極まりないな・・・・・・」

里井くん情報に族長が他人事丸出しで感想と呟くと、思わず桜桃はがっくりとその場で頭を抱えた。

『紅蓮』族長でありながら、そこに所属する族員の志望動機を知らなかったとは・・・・・・それでいいのか、族長という立場は。

 

 

「会社の経営者でもあるまいし、んなもん、いちいち聞いてられるか。ただの暇なガキの集まりに過ぎないんだから」

「・・・・・・いや、アンタなら、たとえ経営者になったとしても、志望動機なんて聞く気ないだろう・・・?」

「おぉ、わかってるじゃん」

すっかり開き直る族長はもう気にしないことにして、桜桃は前方を歩くヨシキと謎の女子大生に集中することにした。

 

 

女子大生と歩くヨシキは、心なしか・・・・・・というよちも、明らかにウキウキしている。

しかも相当親しげにその女子大生と話しているのだ。

これはもう、もしかしてもしかしなくても・・・・・・。

 

 

 

 

「・・・・・・ヨシキって年上の彼女がいたのか・・・?!」

 

 

 

衝撃の事実に、あの族長でさえも愕然としている。

3人のギャラリーを引き連れているとも知らないヨシキとその彼女らしき人物は、駅前にある大型ショッピングモールの目の前までやってきた。

そのまま入って行くのかと思いきや、ふたりは誰かを探すかのようにきょろきょろと辺りを見渡し始めたのだ。

 

 

 

 

 

「ん〜?誰かと待ち合わせしてるのかな?」

「デート中に第三者が乱入か?!それとも合コンか何かなのか?!だったらオレも・・・・・・」

「アンタは行かなくていい。状況がややこしくなるから」

 

 

 

首を傾げた桜桃に対し、勝手に合コンが始まると決め付けた族長が飛び込もうとしたが、すぐさま彼女に止められる。

不服そうに桜桃を見返し、そして彼は里井くんに同意を求めた。

「里井だって女子大生と合コンに参加したいだろ?!」

「え〜っと・・・・・・」

こういうとき、主である族長の意見に素直に頷けばいいのかもしれないが、その傍らに立つ桜桃がものすごい形相と鋭い視線でこちらを睨みつけているのだ。

これに抵抗する勇気は・・・・・・里井くんには、ない。

 

 

 

曖昧にうやむやに答えた里井くんの返事には族長は興味もなく、そわそわとヨシキと女子大生のふたりと見つめている。

「他に来るのも女子大生だったら、オレは乱入するぞ!!絶対に乱入してやる!!」

「あ、誰か来た!!」

女子大生が左の方向を見つめながら、軽く腕を振った。どんな美女女子大生がやってくるのかと桜桃も族長もわくわくと眺めていると、駆け足でやってきたのは明らかに大学生だと思われる青年だった。

しかも、女子大生の元に辿りつくなり、彼女の手を握り締めたのだ。

「は?」

「え?!」

てっきりヨシキの恋人だと思い込んでいた女子大生が、新たにやってきた青年と仲良く手をつないだことで、桜桃も族長も混乱してしまう。

 

 

 

 

「なんだ、あれ?!もしかして三角関係?!」

「うっわぁ、昼ドラ、昼ドラ?!」

「・・・・・・おふたりとも、どう見てもあのふたりが恋人同士で、女子大生とヨシキくんはただのお友達なのだと思いますよ?」

ウキウキと勝手な妄想を広げる族長と桜桃の会話に、思わず里井くんは突っ込まずにはいられない。

けれど、桜桃は不満そうに彼に言い返した。

「だけどさ、さっきのヨシキの顔、女子大生と超親しげだったじゃん?ただの友達って感じじゃなかったけど・・・?・・・もしや、ヨシキの片思い?!」

「う〜ん、そうですねぇ・・・・・・」

「やっぱり三関係だろ!!」

 

 

 

 

ウキウキと3人が見守る中、ふたりの大学生とヨシキはなにやら談笑しながら、また同じ方向を見つめている。先程の青年がやってきた方向だ。

ビルが邪魔をしていて、桜桃たちからは広く見渡すことができない。他にも誰か来るのだろうか。

すると、今度は先程の青年が軽く腕を振って手招きをする。様子を見守っていると、なんと、続々と集団がやってきたのだ。

 

 

 

 

「な、なんだ、あれ?!」

「やっぱり合コンじゃないか?!」

「でも比率が・・・・・・っていうか、年齢層もおかしいでしょうが」

怪訝な表情でその集団を見つめるふたり。

やってきた集団が、じつにバラバラで特徴があり過ぎるのだ。年齢だけではなく、国籍すら違うだろうという人物たちまでいる。

 

 

 

 

大学生らしき青年が追加でひとり、それからなぜか中学生くらいの少女がひとり、さらになぜか、外人美男美女がいるのだ。

この外人がどちらも目を引くほどの美男美女で、どこかの国の一流スターかと思うほどだ。

神々しいほどに美しい外人ふたりに桜桃がうっとりしていると、その後ろで族長が素っ頓狂な声をあげた。

 

 

 

「あれ?あの男の方の外人、マジシャンじゃね?!ほら、ヨーロッパで有名な。なぁ?」

最後の問いかけは里井くんに投げかけながら、族長は首を傾げる。

桜桃もそれを聞いてじっくりとチョコレート色の髪をした背の高い外国人男性を観察してみた。そうして族長から言われた、<ヨーロッパで有名なマジシャン>という単語で、彼女も思い当たった。

「わかった!!ジョン・ベラルディだよ!!私も、前にどっかのパーティーで彼のマジックを見た!!」

「ふふん、今回はオレの方が気付くのが早かったな」

「ぐぐぐ・・・・・・」

得意気に仰け反る族長に対し、今回ばかりは桜桃も言い返せない。

悔しそうに彼を睨みつけてから、彼女はもう一度、マジシャン、ジョン・ベラルディを観察する。

 

 

 

マジックショーの舞台の上に立つ彼と、こうして遠目から見る彼とは、印象が少し違って見える。

舞台の上でマジシャンとして立つジョン・ベラルディは、カリスマ性が溢れていて、指先から紡がれる魔法のようなマジックの世界に、どんどん引きこまれてしまったのを覚えている。マジックがあまりにもすごくて、その世界観に呑まれていた桜桃は、彼自身の顔をよく覚えていなかったのだ。

そういう意味では、族長に先を越されたという形になり、若干悔しかったりもするのである。

有名なマジシャンだ、あちこちのテレビにも出ているに違いないから、顔は知れているのかもしれない。

 

 

3人ともまさかの生の有名マジシャンを垣間見ることになるとは思わなかったので、思わずそちらに意識をとられていると、突然背後から声をかけられた。

 

 

 

 

「私たちに何か用かしら?」

 

 

 

 

 

心底驚いた。

それは、桜桃だけではなく族長も同じ心境らしかった。

仮にも、彼も彼女も喧嘩を<嗜む>程度にはできるので、それなりに人の気配には敏感なのだが、今この瞬間、話しかけられるまで気配など微塵も感じなかった。

声をかけてきた相手は、先程の集団の中にいた、もうひとりの金髪外人美女だった。

いつの間にあの集団から抜け出し、こちらに近づいてきたというのだろう・・・・・・しかも、背後から。

 

 

 

それに、にっこりとこちらに微笑んでいる割に、全然目が笑っていない。

背筋が寒くなるような気配を放つこの謎の外人美女に思わず言葉を失くしていると、桜桃を庇うようにさっと族長が前に出た。けれど、じっと睨みつけるだけで何も言わない。

・・・いや、言えないのだ。この息も詰まるような威圧感の前では。

すると・・・・・・。

 

 

 

 

 

「こら、ロゼ。あまり一般人をいじめるなよ」

 

 

 

 

 

そんな声が飛んできたのは、先程の集団から。

見ると、ジョン・ベラルディと女子大生の彼氏ではないもうひとりの大学生が、こちらを見ている。しかも、その青年は呆れ顔だ。

ジョン・ベラルディはどこか状況を楽しんでいるようにも見える。しかも彼は、桜桃たちに叫んできたのだ。

「こっちに来いよ。こそこそ隠れて見ているより、ずっとよく見えると思うけど?」

 

 

 

 

 

結構離れた距離で観察していたにも関わらず、すっかりばれていたということか。

しかも、ジョン・ベラルディだけでなく、この目の前の外人美女と、あの大学生の青年の3人は、少なくとも桜桃たちがこそこそと見ていたことに気付いている。

・・・・・・しかも先程、「一般人には」とか言わなかったか?!

・・・・・・彼らは<一般人>ではないのだろうか・・・・・・。

 

 

 

 

 

「せっかくピエロがあぁ言っているわけだし、どうかしら?一緒に来ない?」

ピエロ?!

それはジョン・ベラルディのことだろうか。

とにかくも、この外人美女の威圧感には逆らえない。

本当はとんずらしたかったのだが、族長も桜桃も、そして里井くんもまた、この外人美女に言われるがまま、謎の一集団と対面することになった。

当然、その集団の中には、ずっと観察し続けたヨシキもいたりするのだ。

「あっれ?族長にネコお嬢に里井?!一体こんなとこでナニしてんですか?」

「「「・・・・・・・・・別に・・・」」」

ただの興味本位で追跡してただけが、なぜか追及されるはめになった。

・・・・・・とは、言えない、なんとなく。

 

 

 

 

 

「しっかしよく気付いたなぁ〜、和馬。さすがというか、なんというか」

「ジョンとロゼも気付いてたんだよね?!3人ともすごいね〜!!」

例の女子大生の彼氏らしき青年と、中学生の少女が感心したように言うと、和馬と呼ばれた青年はひょいと肩をすくめた。それから桜桃たち3人を引き連れてきた外人美女を睨みつける。

「穏便に連れてくるっていうから任せたんだろ、ロゼ。なんで脅してるんだよ」

「あら、脅してなんかいないわよ?ちゃんと笑顔で同行をお願いしたわよ?」

「・・・・・・笑顔で脅したんだろ?気配でわかるっての」

 

 

 

 

ご明察。

和馬という青年の言う通り、外人美女に脅されてここまでやってきた桜桃たちは、異端者を見るように和馬たちを見てしまう。そんな3人の反応を見比べながら首を傾げているのは、そもそもこの状況を呼び起こしたヨシキだ。

「ネコお嬢、いいんですか、ここにいても?」

「・・・・・・なんで私に聞く?!」

「え?だって、ここで誰を待っているか知ってて、ここに来たんじゃないんですか?!」

・・・・・・知らない・・・・・・とも、さすがに言えない・・・。

ここで誰を待っているのか気になるところだが、そもそもこの集団の正体も気になる。

ヨシキとは一体どんな繋がりがあるのだろう・・・・・・。

 

 

 

 

「それよりも芳樹!!今言った<族長>ってどういうこと?!あなたやっぱり、暴走族に入っていたのね?!」

「う、うるせぇな、関係ないだろ?!」

例の女子大生に突然問い詰められたヨシキは、たじたじとしながらも抵抗してみせる。

ふたりの口ぶりからすると、やはり親しい仲なのはわかるのだが・・・・・・。

 

 

 

「まぁまぁ、里奈、暴走族に入るのも若気の至りだし。多めに見てやれって。地元じゃなくてわざわざ高校近くの地域の族に入ったってことは、里奈たちに迷惑をかけないためだろうし」

「迷惑をかけたくないのなら、そもそも暴走族になんか入らなければいいのよ」

女子大生の彼氏らしき人物は、やはり彼氏だったのか、女子大生を宥めている。だが、ヨシキが暴走族にいることついて、当然だがよろしく思っていない彼女は、しごく当たり前のことを言い返してきた。

とうとう当のヨシキが、煩わしそうにその女子大生に叫んだ。

 

 

 

 

「もう、おれのことはどうでもいいだろう、姉貴!!」

「「「姉貴か!!!」」」

 

 

 

 

思わず声が揃って叫んでしまったのは桜桃たち3人。

思わぬ桜桃たちの反応に、当の女子大生やヨシキまでもきょとんとしている。

「え、えぇ・・・・・・。私は芳樹の姉の里奈ですけど・・・・・・。あなたたち、芳樹の友達か何かかしら・・・・・・?」

「は、はい、まぁ、そんなところです・・・」

あははは、と空笑いして、桜桃たちはその場を凌ぐ。

この場で暴走族『紅蓮』の関わりを話すことは適切ではないことくらいは、さすがに桜桃も族長もわかっている。

・・・これ以上、事態をややこしくもしたくないし。

 

 

 

 

 

「・・・なんだよ、姉弟だったのかよ・・・・・・。オレたちのワクワク感を返せ・・・・・・。覚えてろよ、ヨシキめ・・・・・・」

ぼそぼそとすでにキレ気味の族長は、呪いの言葉のようにヨシキを睨みながらそんなこと呟いている。

勝手に勘違いして勝手についてきたのだというのに、いつの間にか勝手に逆恨みされている哀れなヨシキは、まだ姉の里奈と彼氏の宗次の間に挟まれていた。

 

 

 

「なんで宗次はいつもそうやって芳樹を庇うわけ?暴走族にいていいわけないでしょ?!」

「つってもさぁ、里奈。暴走族って、男の憧れでもあるわけだよ。ちょっとは体験してみたいもんだって」

「族を抜けるのだって容易いことじゃないって聞いたことあるわよ?!それに、喧嘩とか、警察のお世話になるようなことだってあるかもしれないんでしょ?!」

「・・・う〜ん、まぁ、それはたしかに、未来の義理の弟が警察に補導されるのは望ましくないけどな、里奈・・・・・・。・・・・・・でもま、まだかわいい方なんじゃん?」

宗次の最後の一言には、何か多くのものが含まれていて、里奈もまたぐぐっと言葉を失くす。それに対して、和馬が苦笑しているのが見えた。

 

 

「・・・・・・別にオレは来る者拒まず、去る者追うつもりもないから、やめたきゃやめればいいと思うけど」

「でも、ケーサツから逃げ回ってるのと、喧嘩が絶えないのは事実だろ?」

宗次と里奈の言い合いを聞きながら、族長と桜桃もぼそぼそとそんな会話を繰り広げている。

 

 

 

 

 

すると、一台の車がこちらに向かってくるのが見えた。

・・・・・・明らかに、高級車だとわかる、黒光りした車だ。桜桃の家にもあるような、高級車だ。

嫌な予感がして、桜桃はヨシキに小さく尋ねた。

「・・・・・・ヨシキ、ここで誰を待ってるって?」

「ネコお嬢と同じSG女学院の女子大生ですよ!!姉貴が知り合いになったっていうんで、紹介してもらうことになったんです〜!!」

ウキウキとそんなことをほざくヨシキを、もしも姉や謎の外人たちがいなかったら、思いっきり足蹴りしていただろう。

 

 

 

 

そういうことはもっと早く言え!!!

・・・・・・と。

 

 

 

 

 

 

SG女学院とは、名の知れた、超がつくお嬢様学校。

もちろん、正真正銘お嬢様である桜桃も通っている学園である。

とはいえ、学園の中や社交場では、大量のネコを飼い慣らし被っているので、こんなとこでこんな連中と一緒に会うことは、想定外だ。

なんとかして逃げようかと族長を探すと、すでに彼と里井くんは逃亡済みだった。

 

 

 

 

・・・・・・アイツら、絶対殺す・・・・・・!!

 

 

 

 

 

 

「あら、桜桃さんではありませんの?」

「・・・え?あ、あら!!友華お姉さま?!」

 

 

 

桜桃が殺気立っていると、高級車から現れたお嬢様に声をかけられ驚いた。

ヨシキの言う、<SG女学院の女子大生>というのが、桜桃の知っているお嬢様のひとりだったのだ。

社交場に何度か足を運べば、お互いにそれなりに認識はされる。

友華もまた、そんなひとりだった。

宝石商の一族の娘である友華も、よく桜桃とパーティーなどで話をしている。

・・・・・・こういうところで会うことはないが。

 

 

 

 

「珍しいところでお会いしましたわね、桜桃さん」

「え、えぇ、本当に。・・・・・・もしかして、こちらの方々のお知り合いというのが・・・・・・友華お姉さまなのですか?!」

「はい。今日は和馬さんにお呼びいただけたので、喜んで馳せ参じましたの」

 

 

 

突然桜桃の口調が変わったことに、事情を知るヨシキは笑いを堪えているがそれに構っている場合ではない。

どうやらヨシキの姉である里奈の知り合いというのが、友華だったらしいが、彼女の目的は和馬という青年の方にあるらしい。

 

 

 

「今日は和馬お兄ちゃんとは関係ないですよ!!芳樹お兄さんと会ってもらうために、みんなで友華お嬢様を迎えにきただけなんだもん!!」

何を察知したか、中学生の少女が、和馬の前に立ちはだかるかのように友華を軽く睨んでいる。

まるで恋のライバルから恋人を守るかのようだ。

 

 

 

「あら、でも、わたくしは和馬さんにお会いしたかったのですから、同じことですわ、愛良ちゃん」

「ちっがーう!!それに、和馬お兄ちゃんの恋人はあたしなんだから!!」

「こ、こら、愛良!!公衆の面前でそういうことをでかい声で言うな!!」

友華の発言に返ってきた、愛良という中学生の発言に驚いたのは、桜桃だけではなく和馬もまた同じようだった。慌てて愛良の口を塞いでいる。

・・・・・・本当にこの青年、この中学生と付き合っているのだろうか・・・・・・。

人の趣味にとやかく言うつもりもないが・・・・・・犯罪にならないだろうか。

それにしても、友華の好みの男性が、この青年だというのも、なんだか意外である。

・・・それもまた、桜桃も人のこと言えないが。

 

 

 

 

 

「と、とにかく、場所を変えましょう。店を予約してありますし」

「かしこまりましたわ。桜桃さんはいかがされますか?」

「いえいえいえいえ!!わ、わたくしはこれで失礼いたしますわ」

和馬の促しに応じた友華が、桜桃を誘うかのように尋ねたが、彼女は大慌てで首を横に振った。

ここで逃げなければ、どこで逃げれるかわからない。

 

 

 

「そうですか。では、また次の機会でゆっくりお話いたしましょうね」

「はい、友華お姉さま」

「ごきげんよう、桜桃さん」

「ごきげんよう」

 

 

 

 

和馬たちと去っていく友華を見送りながら、桜桃はほっと肩の力を抜く。

すると、先程の金髪外人美女が、こっそりと桜桃に近づいて告げた。

「あの角を曲がったところに、さっきの連れの子たちがまだいるわよ」

「あ、ありがとう・・・・・・ございます・・・・・・」

「また会えるといいわね」

「は、はぁ・・・・・・」

ふふふ、と謎めいた笑いを残して、彼女もまた友華たちの集団に混ざって去っていく。

残された桜桃は、嵐が去ったかのようなその場で、呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

我に返り、とりあえず置いてけぼりにされたことに族長と里井くんを怒鳴りちらし、そして後日、ヨシキを八つ当たり半分以上で袋だたきと問い詰めに遭わせるのは、また別の話・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「紫月の物置き場」3周年、記念小説でした!!

 

コラボ小説は、やっぱり長くなっちゃいますね〜(汗)

「あたしの恋人」と「ネコ被りなお嬢サマ!」は、絶対コラボさせたいシリーズだったので、叶ってよかったです(笑)

冒頭の書き出しは、「あたしの恋人」に倣って、桜桃の一人称にしました。「ネコ被りなお嬢サマ!」に合わせて会話文でもよかったのですが、全体的に「ネコ被り」な視点なので、冒頭くらいは「あたしの恋人」に合わせようかな、と思いまして。

 

 

里奈の弟が『紅蓮』所属っていうのは、結構前から決まっていたので、それがここでやっと明かせました〜!!

そして、SG女学院つながりで、友華と桜桃を会わせたかったので、一瞬だけですけど、それも果たしてしまいました。本当は、里奈たちの視線で書くものもオマケで考えたのですが・・・時間がなかったです・・・・(汗)

 

でも、彼らのコラボネタは、結構豊富にあったりするので、また機会があったらコラボさせると思います(笑)

もとはどちらもラブコメ?!なので、コラボさせやすいんですよね〜(笑)もっと愛良を暴走させたかったのですが、今回は桜桃と族長に奪われちゃいましたね〜!!

次回に期待!!

 

 

さて、「紫月の物置き場」も3年も経ってしまいました!!

ここまで続けてこれたのは、ひとえに応援くださるみなさまのおかげです!!ありがとうございます〜(≧∇≦)

これからもマイペースながらもがんばって更新していこうと思いますので、どうか、よろしくお願いします!!

・・・それにしても、HPの名前がいいものが浮かばず、とりあえずな感じでつけちゃった「紫月の物置き場」も、もう今更改名が面倒なことになってますね・・・・(汗)

もう、紫月らしいHPでいいかなって思ってますけど(笑)

 

 

今回のコラボ小説で、「あたしの恋人」や「ネコ被りなお嬢サマ!」に興味を持っていただけたら幸いです☆

感想等、お待ちしております〜♪♪

 

 

 

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 2011.11.14

 

 

 

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