宴会での嘆き

 



和馬、宗次、里奈は同じ大学で、同じ部活に入っている。
というよりは、里奈に強く強請られて、断ることもできずに演劇部に入部したというのが正しい。



その演劇部では、時々打ち合わせと称した飲み会が開催される。
そんなときばっかり、普段は幽霊部員の和馬と宗次も参加するのだが、今更そんなことに文句を言うような者もいない。



飲み会は楽しく飲んで騒げればそれでいいのだから。





そんな飲み会の最初の一杯の定番は、やはり生ビール。
ところが、女の子たちの中では、ビールが苦手とする子たちも多い。
里奈もそんな女の子のひとりであった。




「お〜い、最初の一杯、ビールじゃない人はどんどん注文して〜」
幹事の掛け声で、次々とカクテルやサワーなどのオーダーの声があがってくる。
何を頼もうかとメニューを広げる里奈の隣に、すでに届けられたジョッキの生ビールを片手に宗次がどかりと座った。


「なんだ、やっぱり里奈はビール飲まないのか?うまいのに〜」
「おや、天野さんはビール苦手?」
里奈の目の前に座っていた男子部員も意外そうに声をかけてくる。里奈は苦笑しながらそれに頷いた。
「ええ、苦手なの」
「あ、あたしも苦手〜。注文する飲み物決まった?」
宗次とは反対の里奈の席の隣に、馴染みの女子部員が座って同調してくる。ついでに里奈もオーダーもしてくれるらしい。
「じゃぁ私、カシオレにする」
「ん、あたしもそうしようっと。すいません〜カシオレ2つ」
「げ〜。カシオレなんて甘いジュースじゃねぇか〜」
女子ふたりのオーダーに、宗次と男子部員がブーイングしてくる。
それに対して、里奈が肩を竦めて言い返した。



「甘いジュースで結構よ。ビールのあの苦味が好きじゃないんだもん」
「女の子ってそう言う子、多いよね」
「でしょ?はっきり言えば、ビール嫌いなのよね、私」
「わかる〜。あたしもビール嫌い〜。どのメーカーがいい、とか味わからないもん」
「ビール嫌いな人にはわからないわよね」
とうとう「ビールは苦手」から「ビールは嫌い」とはっきりと豪語して会話するようになった女子ふたり。目の前に座る男子部員は「へぇ〜」なんて言いながら、ごくごくとビールを飲んでいる。乾杯前にも関わらず。


宗次は、というと、なぜかその場で崩れおちていた。
「宗次?何してるの?」
「・・・里奈、俺はさすがにへこむぞ・・・・・・」
「・・・なにが?ビールが嫌いなこと?!」
「うわぁぁ、それを連呼するなぁぁ!!」
嘆きながら里奈に訴える宗次。
その場で一緒に会話していた女子部員も男子部員も、なぜ宗次がそんなに過剰反応するのかさっぱりわからない。



彼女に自分の好きな飲み物を否定されたのが、そんなにショックなのだろうか?




「なんでそんな過剰反応なの、宗次?」
「別に、里奈がビール飲めないのはいいし、カシオレみたいなジュースのような酒のようなものを飲んだっていい。・・・でも、嫌いはないだろ、嫌いは」
「でも、嫌いだもん、ビール」
「・・・・・・じゃぁ、せめて、ビールと嫌いは連続で言わないでほしい・・・・・・」
しくしくと泣き真似すら始めて訴える宗次の言葉で、やっと里奈は彼が言いたいことがわかった。
と、同時に、思わず大笑いしてしまう。



「あはは、そういうことね」
「なんだよ〜、結構へこむんだぞ〜」
「ふふふ、でも、私のビール嫌いは直らないから」
「うわーん、それ以上言うなー!!」
周りの人間には、なぜ宗次がこんなにも嘆き、里奈があんなにも笑って彼をからかっているのか、意味がわからない。
ビールが好きとか嫌いとかで、なぜこんなにも彼は嘆くのか。




「・・・里奈ちゃん、嘘でもいいから、1回だけ『ビール大好き』って言って?」
「いやよ」
「・・・イジワル」
涙目の宗次のお願いにも、にっこり笑ってばっさり切った里奈。
拗ねる宗次を放って、その日の飲み会を里奈は楽しんでいた。





宗次が里奈の言葉に過剰に反応した理由。
それは、彼と彼女の裏の顔に理由がある。



夜の帳が下りれば、彼らは怪盗夜叉という仮面を被る。
怪盗夜叉の一員である宗次と里奈のコードネームは<ビール>と<ダージリン>。
それぞれが好きな飲み物をコードネームにした単純なものなのだが、宗次のコードネームである<ビール>は、里奈の嫌いなもの。



里奈が「ビールは嫌いなの」と口にすれば、宗次はまるで、自分を嫌いと言われているようで悲しくなってしまったのである。
悲しいかな、彼のコードネームは、彼の好きな女の子の嫌いな飲み物だったのである。





そして宗次は、里奈と飲み会に参加するたびに、おもしろがる里奈を含め、女子部員たちに
「ビールは嫌い」
と言われ、へこんで嘆くのであった。





2010.10.2

 

 

 

 

 

********************************

珍しい、宗次と里奈の日常でした。

 

飲み会の席でふと、思いついた話でした。そういえば、宗次はビールだった、と(笑)

宗次と里奈は、一見すると普通のカップルなので、小話として書くには余計な説明もいらないし、楽ですね(笑)

 

愛良と和馬だとバタバタして終わることもしばしば(笑)

 

またなにか日常で思いついたら書こうと思います☆

 

 

 

BACK

 







 

 

inserted by FC2 system