愛のチカラ

 

 

 


今夜もまた、怪盗夜叉が月を背にして現れた。


警察一同が総動員して怪盗を追いかけるが、まんまと獲物を奪われた上に、さっさと撒かれてしまう。
その素早い動きと計算された経路、手段に、警察も為す術がない。加えて鮮やかな手付きで獲物を奪われ、羽根でも生えているかのように身軽にマントを翻してその場を去っていく怪盗を、最後まで追いかけて行くことができる警官は、とりあえず、その夜にはいなかった。

 


『よし、楽勝〜楽勝〜』
通信機の向こうから、怪盗夜叉の陽気な声が聞こえてくる。
身軽な動きで逃走しながら、今頃彼は鼻唄でも歌いそうな勢いで、ご機嫌にこちらとの合流地点に向かっているのだろう。
「夜叉、<仕事>が終わったとはいえ、油断はするなよ?」
陽気な彼に水を差すようで悪いが、どうしても口うるさくなってしまうのは、彼の身を案じているから。
<ブラック>はそんな自分の役回りにため息をつきながらも、通信機の向こうにいる上機嫌な怪盗にそう忠告する。

 

『はいはい、心配性だな〜<ブラック>は』
「当然だよ。僕らは危険な領域にいるんだからね。油断大敵」
『<ビール>と<ダージリン>は?』
「もう合流地点に向かってる。僕もそちらにそろそろ向かうよ」
『了解〜。それにしても、今夜の警察も愉快だったな〜。あぁもこちらの予想通りに動いてくれると、楽しくて仕方ないな』
「まぁ、少しは学習能力を持ってほしいとは思うけどね」
『おやおや、これは余裕な発言ですね?』
「僕の前で怪盗紳士の口調はやめてくれるかな」
『これは失礼・・・・・・っと。お客様だ』
「・・・え?!」
突然通信機の向こうの空気が変わる。夜叉の言う<お客様>がよくないものであることは明確。
「夜叉?!<組織>の奴らか?!人数は?」
『まぁ・・・少なくはないかな』
「そこはどこだ?!今から<ビール>たちと応援に行くから・・・・・・」
『来なくていい。先にあいつらと合流して、帰ってくれ』
「ちょ・・・・・・」
一方的に言われて、一方的に通信機を切られてしまう。
こうなると、こちらからもう連絡をとる術がない。
「・・・いっつもこうなんだから!!」
すでに通じない通信機に向かって、思わず<ブラック>は悪態をつくのであった。

 


怪盗夜叉は4人で行っているものなのに、怪盗夜叉の命を狙う奴らが現れた途端、夜叉は通信機を切ってしまう。
それはいつものこと。
それは当然、<ブラック><ビール><ダージリン>を巻き込みたくないという意志の表れなのだとはわかるのだが・・・・・・こちらだって心配なのだ。

 

 

仕方なく和馬の家の前で、当人の帰宅を待つしかない実たち。
しばらく待っていると、3人の前に飄々と和馬が姿を現した。
「あれ?なんだおまえら、帰ってなかったのか?」
「・・・あのなぁ、和馬。俺たちがどれだけ心配したと思ってるんだよ?」
「まったく、いつもいつも勝手に通信機を切って・・・・・・」
「それで、和馬?怪我はないの?」
口々に言いたいことを言う仲間たちに、思わず和馬は苦笑を洩らす。
「平気平気。ま、せっかくだからあがっていけば?この時間なら愛良も起きてるだろうし。あ、そうだ宗次。これ、今夜の獲物。ちゃんと死守したぜ」
「オッケー。じゃぁ、さっそく<解読>だな」
和馬から今夜の獲物を渡され、宗次はやる気満々で和馬の家に入る。
家の中からは、愛良がみなの帰宅を喜ぶ声が聞こえてきた。

 


「愛良ちゃん、一緒にお茶の用意を手伝ってくれる?」
「うん!!」
里奈の一声で、愛良が里奈と共にキッチンに消えて行く。
和馬と実はリビングに取り残されて、何を話すわけでもなく寛いでいた。
ちなみに、ロゼは夜叉とは別件の裏の<仕事>中で、ジョンは表の仕事中のため不在。
実は、今夜も全員が無事にこうして帰宅できたことにほっとしつつ、ソファーに深く沈みこんだ。
和馬はというと、カレンダーを眺めながら、「月日が経つのは早いな〜」なんてぼやいている。

 

やがて全員分のお茶をトレーに載せてキッチンからやってきた里奈と愛良が現れると、実も立ちあがってお茶を受け取った。
すると、愛良がふいに和馬に近寄り、彼を後ろから抱きしめたのだ。
「あ、愛良?!」
「愛良ちゃん?!どうしたの?!」
その行為に慌てる和馬と、首を傾げる里奈。
ここに宗次やジョンがいれば、そんな愛良の行動もからかわれたりするのだろうが、今この場に、それを茶化せる者がいない。
しかも、愛良の表情は思い詰めたように真剣なのだ。

 

「・・・どうしたんだよ、愛良?」
様子のおかしい愛良に、和馬がもう一度優しく尋ねる。
彼女がふざけて抱きついてきたわけではないことを悟ったから、優しく頭を撫でる。
「・・・和馬お兄ちゃんこそ、大丈夫なの?」
「・・・なにが?」
ぎくり、と和馬の肩が揺れる。実は愛良の発言に、視線をふたりにうつした。
愛良の指摘は時々鋭い。
そのため、彼女の発言は聞き流すことはできない。

 

「怪我、してるでしょ?腕に」
「・・・・・・・・・」
「本当か、和馬?!ちょっとこっちで診せろ」
和馬が返答もせずに沈黙する。それが肯定の意であることを悟った実が、慌てて再び立ちあがって和馬の腕を引く。よく見れば、和馬の額には脂汗が浮いている。
「・・・いや、いいよ」
「・・・・・・だめだ。じゃぁ、部屋で診るから」
「わかった」
おそらく、先ほどの<組織>との攻防戦で受けた傷だろう。愛良の前で見せようとはしない和馬に、部屋で手当てをするからと言って、彼を連れて行く。

 


愛良に指摘されるまで、実すら全然気づかなかった。
それほど完璧にポーカーフェイスで隠していたのだ、和馬は。
仲間に心配かけないために。
だけど、愛良が気付かなかったら、今夜は和馬は満足に手当てのされない傷のせいで発熱していたかもしれない。

 

「・・・ちぇ、なんで愛良にバレたかな」
悔しそうに告げる和馬に、思わず実はため息をつきながら、本気に近い思いで言った。
「愛の力じゃない?」
「・・・宗次みたいなこと言うなよ」
呆れたように言い返す和馬に、それでも実は、愛良の愛の力に違いないと思っていた。

 


実たちすら騙して我慢していた和馬の傷の痛みに気付いた愛良。
その彼女の愛の力に、思わず彼は脱帽するしかないのであった。

 

 

 


2010.10.31

 

 

 

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「愛のチカラ」というタイトルの割に、結構シリアス度が高いお話。

なので、あえてふざけた壁紙ではなく、ちょっとぐるぐるした感じにしてみました。実君の心情みたいな?

怪盗夜叉のシーンもあったので、あんまりハート乱舞な壁紙はできないなぁ・・・と。難しい(笑)

 

ある意味これもまた日常だろうな、と思う、愛良たちの日常のひとつでした。
 

 

 

 

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