駆け込み寺3

 

 

 

 

 

人の噂というものは、自分の預かり知らないところで拡大していく。

特にそれがおもしろいネタであれば、あるほどに。

 

 

 

 

「ちょっと、ちょっと、瀬戸くん!!」

大学の講義も終えて、宗次たちと合流しようかと食堂に向かおうとした和馬の背中に、聞き慣れない女性の声がかかった。

見れば、やっぱり知らない顔の女性である。

人の顔は、裏の仕事柄、大抵覚えている自信はあるのだが・・・・・・。

 

 

 

「・・・なにか?」

「噂で聞いたんだけど、瀬戸くん、廃業したんだって?!」

馴れなれしく和馬に話しかけてきた女性は、責めるように彼にそう問いかける。主語もなにもあったもんじゃないその問いかけに、和馬は首を傾げる。

「廃業って・・・なにが?」

和馬の裏稼業はまだまだ廃業の目処も立たずに続投中である。

しかも、この女性はそれを知らないはず。

一体何の話をしているのか、と怪訝な顔で彼女を見返すと、彼女は彼女でイライラした様子で彼に言い返した。

 

 

 

 

「決まってるじゃない、<駆け込み寺>のことよ!!」

 

 

 

 

 

・・・決まってるのかよ。

つぅか、廃業云々の前に、開業した覚えもない・・・・・・。

 

 

沸き起こった突っ込みと共に呆れと怒りも口に出かけたが、あえてそれを飲みこんでおく。

このくだらなそうな会話はさっさと終わらせた方がよさそうだ。

「・・・あぁ、そうだよ」

和馬はそれだけ言って、立ち去ろうと彼女に背中を向けた。

「知りたいのはそれだけ?だったら、その噂はほんとだから、じゃぁ」

そういう噂なら勝手にでもなんでも広げて、もう見知らぬ人間が我が家を訪問してこないことを祈ろう。

突然の来訪者にはうるさいのが、何人も同居しているのが現状なのだから。

 

 

 

 

 

「待って、瀬戸くん!!その廃業の理由が、小学生の恋人ができたからっていうのも本当なの?!」

 

 

 

 

 

さっさと立ち去ろうとした和馬の背中に問いかけられた、女学生の言葉。

大学の廊下のみならず、和馬の脳内でさえ恐ろしいエコー付きで響いた問いかけに、思わず振り向いてしまった。

まるでブリキの人形のように、ギギギギ、と音がしそうなほどぎこちない動きで。

 

 

 

「・・・・・・なんだ、それ・・・?」

「だって、噂でそういう風に言われてるのよ?瀬戸くんが<駆け込み寺>を廃業したのは、小学生の恋人ができたからだって」

「・・・・・・・・・」

二の句が告げないとはまさにこのこと。

もしもこの場に宗次がいれば、彼はここで笑い転げていたかもしれない。

 

 

 

 

そういえば、とフリーズしかけた頭でふと思い出す。

いつだったか、和馬の家を<駆け込み寺>だと信じて、夜中にベルを鳴らしてきた女性がいた。

だけど、すでに愛良との同居も始まっていた和馬は、彼女を丁重に追い出そうとしたのだが・・・・・・そう、その時その場に居合わせていた愛良が、その子に堂々と告げたのだ。

 

 

 

「あたしは和馬お兄ちゃんの恋人なんだから!!」

・・・と・・・・・・。

 

 

 

 

 

・・・あれか。

あの一言なのか。

あの一言で、こんな噂が立ってるのか?!

一体どこまで広がってるんだ?!?!?

というか、情報収集係の宗次のヤツは、この噂を知っているのか?!

・・・・・・知っててもこの情報に関しては和馬に言うことはないだろう。

影で里奈と一緒におもしろがってるんだ、きっと・・・・・・・・・。

 

 

 

怒りの矛先はゆっくりと、親友であり悪友である宗次に向かっていく。

けれど、とにもかくにも、この場をなんとかしないといけない。

 

 

 

 

「・・・あのさ・・・・・・」

痛む頭をなんとかおさえるように、こめかみを押さえながら和馬は口を開く。

「フツーに考えてほしいんだけど、大学生が小学生と恋に落ちると思うか?」

「思わないけど。・・・でも、瀬戸くんって<お坊さん>だって聞いたから」

「・・・・・・<坊さん>・・・・・・」

そういえば以前、宗次と里奈も同じことを言っていた気がする。

和馬は<お坊さん>だと。

どういう意味なのだろうか。

 

 

 

「<坊さん>って?」

「女性が一晩泊まっても人畜無害ってこと」

きっぱりとそう言いきる女学生。だけど、その言い方に呆れや憐れみ、同情すらうかがえるのは、和馬の男としての甲斐性を問われているのだろうか。

「でも、瀬戸くんの<タイプ>が、小学生だっていうのなら、今までの事実には納得かなぁって」

「ちょ、ちょっと待て、なんだ、それ・・・・・・」

「違うの?小学生とかがお好みなのかなって、みんな噂してるよ?」

 

 

 

もはや、視界が暗転しそうである。

ぐらぁっと傾いた頭をなんとか堪えて、和馬は激しく首を横に振った。

「ち、違う!!そんなことは絶対にない!!」

「そうなの?じゃぁ、<駆け込み寺>も廃業してないの?」

「いや、それはもうやってない。ちょっと同居人が増えたから、もう部屋がなくて」

「へぇ?」

「・・・・・・なぁ、頼むから、その噂、訂正してくれないか?」

「ん〜、まぁ、私ができるところまでならしておくけど」

「・・・・・・お願いします・・・・・・」

もはや、土下座してお願いしたい勢いである。

 

 

 

 

噂の真偽が定かとなって満足したのか、その女学生はあっさりとそのまま和馬の前から立ち去った。

そうしてその場に残された和馬は、あまりのショックの連続に灰になりそうだった。

噂とはかくも恐ろしいものなのだろうか・・・・・・・・・。

 

 

 

 

・・・そして、その噂がおもしろおかしく尾ひれがついていくのを黙って見過ごして、和馬があわてふためくその瞬間を心待ちにしていたであろう、親友の顔を思い浮かべる。

再燃してきた怒りに、和馬は踵を返す。

向かう先は、大学の食堂。

涙が出るほど素晴らしい大親友に、怒りの鉄槌を下すために。

 

 

 

 

 

 

 

2010.12.19

 

 

 

 

 

 

 

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 もう、シリーズ化しちゃってます(笑)この<駆け込み寺>ネタは(笑)

WEB拍手のネタが浮かばないときはこれに限ります(笑)

 

時間軸としては、「駆け込み寺2」からあまり時間が経っていない設定なので、ちょっと前後しちゃうのですが、愛良がまだ小学生だったりします。

もしも「駆け込み寺4」を書くときがあったら、そのときは中学生になった愛良の登場となるでしょう。

・・・書くのかなぁ・・・・・・??

 

でも、振り回されてる和馬を書くのは好きです(笑) 

 

 

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