キャンドル・パーティー

 

 

 

 

 

 

突然東日本を襲った大地震。

それの影響で原発が次々と使いものにならなくなり、輪番停電が行われることになった。

 

そして、瀬戸家もまた計画停電対象の地区にあった。

 

  

 

 

 

 

「・・・なんだ、これ」

和馬が出先から帰宅すると、すでに小学校の卒業式も終えて春休み中の愛良に加え、ロゼとジョンもリビングに集まっていた。

どうやらこの騒ぎで、ジョンのマジックショーも次々とキャンセルが相次いでいるらしい。

そして、和馬たちの<裏の仕事>も展示期間が延期されたりして、滞っている。

 

 

 

そんなわけで珍しく4人揃って瀬戸家のリビングに集まることになったのだ。

その中で、リビングを最後に訪れた和馬が見たのは、常ならぬ光景。

リビングのあちこちに、ロウソクが飾られているのだ。

 

 

「今夜から停電になるのでしょう?だから、キャンドル・パーティーでもしようかと思っているのよ」

 

 

にっこりとそう返答したのは、この家の居候のひとり、モデルも敬遠しそうなほどの美貌を誇る金髪碧眼の外国人、ロゼ。

そのロゼの傍らには、不安そうな表情を浮かべている愛良がいる。

 

 

 

「今夜からの停電、大丈夫かなぁ?真っ暗になっちゃうんだよね?!」

 

 

初めてのことで、さすがの暴走娘の愛良も不安を隠せないらしい。

<パーティー>と称して蝋燭を用意しているのは、ロゼが愛良を安心させるためでもあるのだろう。

何と言っても、ロゼは愛良至上主義なのだから。

 

 

 

「大丈夫よ、プリンシア。この家にはみんな揃っているのだし、こうしてキャンドルを用意すれば、月明かりとキャンドルの炎で幻想的な夜が過ごせるのよ」

「んで、オレがその幻想的な夜に、さらに夢の国に誘うマジックをお見せしましょう」

「・・・・・・そんな余計なことしなくていいわよ、ピエロ」

「なんでだよ、別にコルヴォのためにやるわけじゃないし」

 

 

 

ロゼが愛良を安心させるように言えば、ヨーロッパでは名の知れたマジシャンであるジョン・ベラルディが、恭しく腰を折っておどけてみせる。が、すぐさまロゼから厳しい拒絶の声が上がり、ふたりの雰囲気は険悪になる。

相変わらずのふたりの仲に、それを見守っていた和馬がため息をついていると、話題の中心だった愛良が無邪気に笑った。

 

 

 

「キャンドルの明かりの中でのマジックショーなんてすごいね!!それってすごいロマンチックかも!!ね、和馬お兄ちゃん!!」

「・・・俺にふるのかよ。・・・・・・でもま、そうだな、どんなマジックショーでもそんなショーはお目にかかれないから、ジョンの実力を拝見しようか」

「お、言うね〜ジュニア。いいぜ、見せてやろうじゃん」

そんな感じで、愛良の一言でたちまち和やかな空気に変わった瀬戸家では、みなが一丸となってキャンドル・パーティーの用意をすることになった。

 

 

 

 

 

 

そうして計画停電の時間に近づき、ロゼが用意した蝋燭に火を灯し始めた。

それを見守っていた愛良が、不安そうに和馬の袖を握る。まだ幼い愛良には、この未曽有の事態が飲み込めず、不安だらけなのだろう。

和馬たちとて、一体なにがどうなっているのかわからないことだらけなのだから。

とはいえ、愛良を不安のままにさせておくのもかわいそうだったので、和馬は努めて優しい声で彼女に言った。

 

 

 

「大丈夫だよ、愛良。ロゼも言っただろう、ここにみんないるんだし、怖いことなんかないよ」

「・・・・・・うん、そうだよね・・・」

力なくも愛良が頷いたそのとき、何の予告もなく、ぶつっと電気が消え家中が真っ暗になった。どうやら周りの家もそうらしく、家の外も中も一気にあたりの明るさが消えてしまう。

「か、和馬お兄ちゃん・・・・・・!!」

「大丈夫、停電が始まっただけだって」

和馬も一瞬驚いたが、愛良をなだめるように背中を撫でつつ、落ち着いた声で答える。

月明かりがリビングの窓から差し込み、わずかながら部屋の中を照らしている。

必死にしがみついてくる愛良を、今回ばかりは和馬も振り払おうとはしなかった。

 

 

 

 

「プリンシア、こっちを見て。もうすぐ全部のキャンドルに明かりがつくわよ」

黙々と蝋燭に火を灯していたロゼが楽しそうにそう言う。

事実、この事態をロゼとジョンは絶対に楽しんでる。どの道、夜の世界で暮らす彼らはこれしきの暗闇、なんてことはないのだろう。

やがて、リビング中に不規則に並べられた蝋燭に火が灯ると、愛良の口から感嘆の叫びがあがった。

 

 

 

「うわぁ・・・・・・綺麗・・・・・・!!」

 

 

 

それはたしかに幻想的な光景だった。

部屋の各所にちりばめられたキャンドルの弱い明かりが、まるで灯篭流しのようにゆらゆらと辺りを照らす。そして窓から差し込む月明かりがそれを映し出す。

互いの顔もぼんやりとしか見えない状態だったが、それがなおさらこの幻想的な雰囲気に拍車をかけた。

それに魅了されたか、愛良の和馬を掴む手が次第に緩んだ。

 

 

 

 

「不測な事態を悲観していても楽しくないわよ、プリンシア。こうして暗闇を楽しむ方法もあるのだから」

「そーそ。どうせまだまだこの生活は続くんだし?どうせせっかくの機会なんだから、パーティーとして楽しむ方がいいだろ?」

ロゼとジョンが愛良をあやすようにそう言えば、今度こそ愛良は元気よく頷いた。

「うん、すっごく綺麗!!これなら停電も素敵だね!!」

「・・・・・・ま、ここにいる限りは、な」

うっかりそう和馬が呟けば、ロゼとジョンが同時に和馬の足を蹴った。だが、愛良はもう停電を怖がっていないようだった。

 

 

 

 

「キャンドル・パーティー素敵だね!!これなら夜の停電も怖くないね!!」

「そうでしょう?また夜の停電になったらこうしてパーティーをしましょう。お昼の停電はまた別のパーティーを考えましょうね」

「・・・・・・いや、なにもパーティーに拘らなくても・・・・・・」

「なに言ってるんだよ、ジュニア。こういうときこそ心の底から楽しむ企画を練るのが、エンターテイナーの仕事だぜ?!」

「・・・・・・俺は別にエンターテイナーじゃない・・・・・・」

 

 

 

ロゼの提案を和馬がつっこめば、すぐさまジョンから非難の声が上がる。そのとんちんな非難に抗議しつつも、もはや和馬はそれを納得してもらおうとは思ってもいなかった。

 

 

 

不測な事態のときほど、それを「悲」ではなく「楽」に変えようとする、そのふたりの考え方は同意できたから。

なにより、愛良を不安にさせないようにしようとする、ふたりの気持ちも伝わったから。

 

 

 

 

 

「・・・結局俺も、愛良に甘いのかもな・・・・・・」

苦笑をもらしながらも、結局は和馬も月明かりと蝋燭の明かりのもと行われた、ジョンの幻想的なマジックショーに翻弄されてしまったのだった。

 

 

 

 

 

そうして、ロゼとジョンの監修のもと、計画停電が落ち着きを取り戻すまで、<パーティー>はありとあらゆる形と趣向を変えて行われたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

2011.3.19

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

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 1年前の震災で犠牲になられた方のご冥福をお祈りするとともに、被災に遭われた方々の1日も早い復興をお祈りします。

 

昨年、原発問題が浮上する中、輪番停電が実施されました。

今回の話は、このシリーズに沿ってなるべく明るく書いてますが、「そんな簡単な話じゃないだろ!」と気分を害されてしまった方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。

だけど、きっと彼らはこうするだろうと思ったので、書いてみました。

そして、彼らならこの暗い雰囲気の中でも笑い飛ばしてなんとかしちゃうだろうという破天荒なところもあるので、そんな彼らを見て、少しでも気分が明るくなる方法があればと思ったので。

 

現実問題としては、そう生易しいものでもなく、今もまだ、失ったものの大きさに苦しんでいらっしゃる方も多くいらっしゃると思います。

できることはわずかでも、小さな力が集まれば大きな力となると信じて、紫月も自分ができるところから、復興を応援したいと思っています。

 

更新の順番としては、この話の更新はまだずいぶんと先のはずなのですが、どうしても、「今日」という日に更新をしたくて、順番を無視しました。

この話を書いたのは、2011年3月19日のことです。

あれから1年。

どうか、被災された方々の苦しみや悲しみが、少しずつでも緩和されていくように、被災地が復興していくように、そして、亡くなられた方々のご冥福を、お祈りさせていただきたいと思います。

 

2012.3.11 

  

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