駆け込み寺?

 

 

 

 

 講義が終わった教室に残るふたり。
そのうちのひとり、宗次は和馬の肩を抱いて、猫なで声で彼に頼みこんでいた。

 

「なぁ、頼むよ〜。今度の合コン、頭数足りねぇから参加してくれよ?」
「・・・だから、その日はバイトがあるって言ってるだろ?」
「<仕事>もあるのに、ちゃんとバイトもこなすなんて、じつに真面目だねぇ、かずくん」
「宗次は少しは真面目になったらどうだ?里奈にまた合コン行くなんて知られたら大目玉だろ?」
「まったくね。でもいい加減慣れたわ」
「り、里奈・・・」

 

経済学部の教室で話していたふたりの背後に里奈が現われ、宗次が引きつった笑みを浮かべる。
「あ、あれ、なんで文学部の里奈がここにいるのカナ?」
「迎えに来たのよ、宗次クン。今日は私との約束があるから、他のかわいい子との約束で姿を消される前に」
「やだなぁ、里奈との約束を忘れてるわけないじゃないか」
「どうだか」
呆れた表情で言い返してから、里奈は和馬に視線を向け、再び宗次に戻した。

 


「和馬なら、彼女ができたら一筋で彼女だけを大事にするんでしょうねぇ・・・。宗次も見習ってよね」
「あ〜!!里奈、そんなこと言うけどな、和馬のやつはとっかえひっかえ、女を家に連れ込むプレイボーイなんだぜ?!」
「ひ、人聞きの悪いことを言うな!!」
ふてくされる宗次の口を、和馬が慌ててふさぐ。しかし、里奈はその話の実態を知っていたので、必死に否定する和馬にくすくすと笑いながら尋ねた。
「和馬って<お坊さん>なんでしょ?」
「・・・は?」
「あははは、たしかに、和馬は<坊さん>だな」
急にけらけらと笑いだして宗次が里奈の言葉に同意した。
「おまえら、いったい何の話を・・・」
「あ、宗次、そろそろ時間だから行くわよ?」
「あぁ、はいはい。じゃぁな、和馬」
「え?あ、あぁ、またな」
腕時計で時間を確認した里奈に急かされて、宗次は彼女と共に教室を立ち去った。そして、残された和馬は首を傾げる。
「・・・で、<坊さん>って何のことだ・・・?」

 

 

校舎を後にし、目的地に向かう宗次と里奈もまた、奇しくも先程の話題の続きを続けていた。
「あんまり和馬をからかっちゃだめよ、宗次?」
「からかってないさ。女をとっかえひっかえ家に泊まらせてるのは事実だろ?」
「まったく、意地悪なんだから。和馬がその子たちと何の関係も持ってないことは、宗次だって知ってるくせに」
にやにやと笑う宗次に、里奈は憤慨した様子でそっぽを向く。
「知ってるけどさ。羨ましいじゃねぇか、あんなでかい家にいて、部屋が余ってるから女たちが集まるんだぜ?あの<駆け込み寺>に」
くくくっと宗次は笑ってそう言う。

 


駆け込み寺。
和馬がひとりで暮らすには大きなその家は、この大学の一部の学生の中ではそう呼ばれていた。

その理由はじつに単純。
学生の身分でありながら、恋人と同棲生活を送るカップルが喧嘩し、どちらかが家を飛び出したときに和馬の家を訪れるのだ。
そして、女であれ男であれ、「帰る家がない」と嘆く者たちにため息を吐きながらも、和馬はあっさりと空き部屋を提供するのだ。

 

そんな風に利用されている和馬を、「お人よし」と周りの人々は嘲笑うが、和馬の真意を知る宗次たちは彼をそんな風に言うことなどできない。
せいぜい、そんな彼に対して苦笑をもらすことくらいだ。
なぜなら、彼がそうやって夜であっても部屋をさまざまな友人に提供するのは・・・・・・・・・。

 

 

「宗次にとっては羨ましくても、和馬にとっては、あの家の広さは<恐怖>でしかないのよ・・・」
「・・・・・・わかってるさ・・・」
声のトーンを落としてつぶやく里奈に、宗次も笑みを消してうなずく。

 

あの家で暮らしていた両親。
楽しい思い出が詰まった家。
突然、それが奪われ、ひとり取り残された恐怖。
・・・それも、非道な奪われ方で・・・・・・・・・。


すべてを知った和馬は、ひとりであの家に長居することを拒絶しているかのようだった。
楽しい思い出を思い出すことを、それにすがることを、怯えているようだった。

 

そうしなければ、<怪盗>という裏の顔を保てなくなりそうで。
同時に、<怪盗>をしなければ、狂いそうなほどの復讐心に潰されそうで。

 

だからといって、毎晩怪盗業をすることはできない。
おのずとひとりであの家で過ごすことが多くなる和馬だったが、<駆け込み寺>のうわさが広がり、学生たちが押し掛けてくるようになると、むしろ和馬は苦笑しながらも、彼らを受け入れた。
女学生からは、一晩あの家で過ごしてもまったくの無害であることから、和馬は<お坊さん>と呼ばれていた。


おそらく、<駆け込み寺>の<お坊さん>という意味も含まれているのだろうが。

 

 


「・・・復讐がいいこととは思えない。それでも、今の和馬を動かすものがそれだというのなら、私たちは彼を支えるしかできないわ」
「<組織>に真っ向から復讐しようってんじゃないんだ。あいつらが切望してやまない<シリーズ>を奪ってやろうっていうんだから、危険度は低いだろ?」
不敵な笑みを浮かべる宗次もまた、そう言いながらもそうではないことはわかっていた。


危険度が低い?
そんなわけはない。
あの<組織>は人の命を奪うことに何のためらいもない。
<怪盗>が消される可能性だってある。


けれど、宗次は和馬の思いを、願いを支えて協力したかった。
両親をなくし、自暴自棄になっていた頃の和馬に、なにもすることができなかった自分を悔やんでいるから。

 

「<シリーズ>を集めることに、今更私だって反対なんてしないわ。こうすることは、みんなで決めたことだもの。・・・でもね、私は和馬自身の心が心配なの」
「・・・裏稼業をやってるせいか、あいつは特定の誰かと付き合おうとはしないし、な。これからもあぁやって孤独に耐えるしかないのかな」
「強引でもいいから、誰か、和馬のそばにいてくれる人が現れるといいのにね。和馬と一緒に暮らしてくれるような人が」
「でもきっと、自分の身を自分で守れるような強い女じゃなきゃ、あいつはきっと一緒に暮らそうとなんかしないぜ?いつ<組織>に狙われるかわからないから」
「・・・そんな非常識なレベルの女がどこの世界にいるのよ」

 

じろり、と睨んでくる里奈に、宗次は曖昧に笑う。
ふざけてるわけじゃない。
きっと、和馬はそう思っているだろうから。
でも、宗次に里奈がそばにいて支えてくれるように、和馬のそばにも彼を支え癒してくれるような存在ができればいいと思ってる。

 

 

「・・・やっぱり、さっさと<シリーズ>を集めるしかないな!!」
「そうね。それが一番てっとり早い解決策よね」
ふたりはそう結論づけてその話題を打ち切る。
そうでもしないと、この話題はどんどん闇に飲まれてしまう。

 


そして、里奈の願いが届いたのか、相当強引に、ある少女が和馬の家に押しかけて来るのは、それから2カ月後の話。

 

2009.12.18


 

 

 

 

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あまりWEB拍手でシリアスっぽいものをもってきたくなかったのですが、今回だけ例外!(汗)

たぶん、これからはないと思いますので(汗)

 

これを普通に番外編にしてもよかったのですが、番外編にするほどの長さが浮かばなかったという(笑)

 

 

そして、今は愛良と一緒に暮らしているため、和馬くんの「駆け込み寺」は廃業したとか(笑)

 

 

 

 

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