憂鬱な日曜日

 

 

翌日から 1週間が始まる日曜日に憂鬱な表情を浮かべる者は少なくない。

 

けれど、まだ小学校にもあがらない幼い少年が、まるでサラリーマンのようにうんざりした表情で、憂鬱な日曜の夜を過ごすのは、珍しいことに違いない。

 

「・・・はぁ・・・」
「“やぁね〜、なにため息ついちゃってるのよ!!さってと、今週も終わったことだし、来週はどうしようかしら?ねぇ?”」


幼い子供らしからぬため息をつけば、母が底抜けに明るい声でそれを笑い飛ばす。同時に投げかけられた問いかけに、たとえ心の底から本音で答えたところで、叶わないことは幼心にわかってはいたが・・・・・・。

 

「“・・・俺、そろそろ日本語で1週間過ごしたい・・・”」
「“あら、『ここ』でそれはだめよ、かずくん”」

 

ほら、ばっさり。
己の要望など、母はあっさりと切り捨ててしまう。

 

「“ドイツ語、フランス語、イタリア語・・・。今月はヨーロッパ地区の言語ばっかりね。ここらへんで息抜きに韓国語にでもしておく?”」

 

・・・息抜きなら日本語にしてほしい。

 

幼い少年の願いも、おそらくこの母には届かない。

 


「“今週のイタリア語はそろそろおしまいかい?来週は何になるんだ?”」
「“父さん!!”」
突然リビングに現れた人物に、少年は瞳を輝かせて飛びついた。父と呼ばれた男は、幼い一人息子を抱きかかえると、愛する妻の元に歩み寄る。

 


「“息抜きに韓国語にでもしようかと思って。かずくん、韓国語は完璧だし”」
「“そうだな、まだヨーロッパ系は苦手みたいだな。イタリア語の発音も時々変な訛りがあったしな”」
くすくすと笑う父の言葉に、少年はむっと薄い眉を寄せる。


「“・・・だって、難しいもん”」
「“難しくても、それが日常のように喋れるようになってほしいのよ”」
なぐさめるように母の手が少年の頬を撫でる。
「“だから来週は韓国語で過ごしましょう?さて、あたしは夕飯の用意をしなくっちゃ”」

 

明るく告げた母は、そのままキッチンに姿を消す。
母の姿が完全に消えると、少年は不服そうにこっそりと、父に日本語で抗議した。
「・・・俺は日本語で暮らしたい」
「『ここ』以外では日本語だろう?幼稚園でも、どこでも。ここは日本なんだから」
「ここは日本なんだから、『この家』でだって日本語でいいでしょう?なんで、『ここ』は日本語で喋っちゃだめなの?」
母には聞こえないように、小さな小さな声で、ふたりは日本語で話す。

 

そう、先ほどまでの会話はずっと、<今週の言語>だった、イタリア語で話されていたのだ。
その仕切り役でもある母の姿がなくなった途端、日本語を紡いだ息子の機嫌をあやすために、父もあえて日本語で返したのだ。

 

「いつかきっと、わかる。なぜこんなことをしなければいけないのか。・・・本当は、こんなことさえ必要ないような世界になればいいけれどね・・・」
「父さん・・・・・・?」

 

父が一瞬見せた悲しそうな瞳に、少年は戸惑ったように声をかける。
「“だ、大丈夫だよ?!別に、俺、いろんな国の言葉を喋るの、嫌いじゃないから!!それに、来週は韓国語だから、ヨユーだぜ!!”」
悲しげな表情を浮かべる父を励ますように、息子は突然陽気なイタリア語でそう告げる。

 


「“あら、ヨユーだなんて、言ってくれるわね。じゃぁ、再来週はちょっと難しい言語にしようかなぁ〜”」
前菜のサラダを手にリビングに戻ってきた母の声が背後からして、少年の身体は強張る。

 

「“か、母さん・・・・・・”」
「“かずくんはかしこいから、母さん、とっても楽しいわ”」
それはそれは本当に楽しそうに笑う母の前に、少年はがっくりと頭を垂れる。そんな少年の頭をぽんぽん、と父が慰めるように叩いた。

 


こうして、幼い和馬少年の憂いの1週間が再び始まるのである。

 

 

2009.12.27

 

 

 

 

 

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語学堪能な和馬の幼少期の苦労話(笑)

ご両親もちらっとだけでてきましたね。ご両親はまだまだこれから本編でも話題に上る・・・予定なので。

 

でも子供のころの英才教育もやりすぎると、反抗しそうですよね(笑)

かずくんが素直な子でよかった〜(笑)

 

 

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