不在中の心配ごと

 

 

 

 

それは、玄関でのやりとり。
愛良は大きな荷物を抱えたまま、玄関に立ち尽くしていた。そこには愛良を見送る和馬。
非常に珍しい光景である。

 

 

「・・・お兄ちゃん、冷蔵庫には何日分か作り置きがあるし、冷凍庫にはおかずもあるからね?」
「・・・はいはい」
「それと、洗濯機の乾燥機部分が壊れてるから、洗濯物は全部外に干してね?」
「・・・っていうか、壊れてるなら早く言えよ・・・・・・」
「あんまり夜更かししちゃだめだよ?寝不足は体に悪いんだから!!」
「・・・どっかの医学生みたいなことを・・・・・・」
「あとそれから・・・・・・」
「あ〜もう!!いいからさっさと行けよ、愛良!!」

 

 

とうとう和馬は玄関先で愛良の言葉を遮って、呆れたように怒鳴った。
それに応対する愛良も強気な表情である。
「だって!!あたしが居ない間、和馬お兄ちゃんがどんな生活するか心配なんだもん!!」

 


里奈から散々聞かされている、和馬の日常生活。
愛良がこの家を取り仕切るまで、彼は、それはもう自堕落な生活をしていたのだという。

 

とりあえず、食というものに大きな関心を寄せない。
お腹が空く、という現象は起こるようなのだが、それを満たすのが栄養のあるものだろうがないものだろうが、なんでもいいらしい。
下手をすれば一日中お菓子だけで食事を済ますこともしばしばだったとか。

 

見るに見かねて里奈が時々食事を作り、作り置きを冷凍庫に入れたりもしていたのだが、「温めるのが面倒だった」の理由でそれを食べることがないときもあったとか。

 


小学生の愛良ですら絶句の生活ぶりである。

 


掃除は好きなのか、ひとりで暮らすには大きなこの家に埃がたまっている様子はない。
それぞれの部屋もきちんと整頓されている。
・・・が、洗濯は苦手なのか、いったい何日分?!というほどの洗濯物を貯め込むことがある。

 

とはいえ、毎日下着も洋服も変えてはいるので、不潔というわけではない。
だからこそ、愛良が心配するのは和馬の食生活である。
よくわからないが、バイトのせいで夜が遅いのも心配ではある。

 


「・・・あのなぁ、愛良が来るまで俺は2年以上ひとり暮らしだったんだぞ?今更そんな心配いらないだろ?」
「いるよ!!だって、里奈お姉さんが、和馬お兄ちゃんはいつも体調を崩してたって言ってたもん!!」
「それは生活スタイルのせいじゃなくて仕事のせい・・・・・・あぁ、いや、なんでもない」

 

勢いに任せて言いかけた言葉を、はっと和馬は濁す。でも、愛良はここで食い下がる。

 

「実お兄さんも言ってたよ?あたしが来るようになって、お料理をするようになってから、和馬お兄ちゃんの顔色がいいって」
「・・・・・・実のやつ・・・・・・」

 

実はよく、和馬をからかうように、けれどそこには本気の安堵も含めてよく言っている。
「愛良ちゃんが来るようになって、食生活も改善された上に、和馬の精神上も安定してきたようでよかったよ」と。

 


この家でひとりきりになることを恐れる和馬。
夜、暗闇の中で、ひとりになると思い出す、あの日のこと。
だから、嫌いだった。この家で暮らすことが。この家で眠ることが。
でも、この家から離れたくはなかった。
唯一の残された思い出だから。

 

 


「・・・とにかく、さっさと行けよ、愛良。集合時間に遅れるだろ?」
「あ、ほんとだ。・・・・・・じゃぁ、本当に気をつけてね、お兄ちゃん?」
「はいはい。たかが3泊4日の修学旅行にでかけるくらいで大騒ぎだな、おまえは」
「和馬お兄ちゃんがもっとしっかりしてれば、あたしだってこんなに心配しないもん」
こんなやりとりを繰り広げているふたりは、果たしてどっちが年上なのだか。

 


そう、愛良は今日から4日間、小学校の修学旅行のためにこの家を空けるのだ。
今まで、和馬がこの家を空けることがあっても、愛良が空けることはなかった。
ゆえに、愛良は学校の行事とはいえ、この空白の時間の和馬の生活が心配で心配で仕方なかったのだ。

 

「・・・小6で修学旅行なんてなければいいのに」
「なぁに言ってるんだよ。今しか作れない思い出だってあるんだから、ちゃんと楽しんで来い」
ぶつぶつと言う愛良の頭を、和馬の大きな手が撫でる。見上げてくる愛良に、和馬は優しく微笑んだ。
「4日間、ちゃんと楽しんでこなかったら、この家に入れてやらないからな」
「・・・・・・わかった」
「あぁ、それと」
「ん?」
「おまえがいない間、里奈と宗次、実たちが押し掛けてくるから大丈夫だよ。あいつらが騒がしくて、俺だって好き勝手に不精ができなくなる」
「ほんとに?!よかった〜!!」

 

 

和馬を取り巻く3人の友人。彼らが和馬のそばにいてくれるなら、愛良も安心だ。
ほっとしてにっこりと笑みを取り戻した愛良に、和馬はやれやれとため息をつく。
「・・・まったく、おまえもとんだおせっかいだな」
「当たり前でしょ〜!!!お兄ちゃんはあたしの恋人だもん!!」
「・・・・・・恋人じゃないからな、宿主だ、宿主」
「そんなこと言っても、きっとあたしが居ない間さみしくなるに決まってるんだから!!じゃぁね、お兄ちゃん、行ってきます〜!!!」

 

 

 

元気に手を振り荷物を抱えて出て行く愛良を見送り、和馬はひとりまだ、玄関に立ち尽くしていた。
嵐のように機嫌を上下させて騒がしく出て行った愛良を思い起こし、思わず笑みがこぼれる。

 


「・・・ま、たしかにさみしくは思うかもしれないな」

 

そんなこと、本人には言わないが。

 


2010.3.19

 

 

 

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ホントは本編で書きたかった話。

でもあれよあれよというまに、修学旅行シーズンが終わりつつある本編・・・(笑)

 

愛良の小学校は夏に修学旅行をしてしまうので(汗)

そう決めたので!!!

 

 

なので、番外編としてここに(笑)

ま、このやりとりさえ書ければもう満足です。

もっともっと修学旅行ネタで書きたいことはあったけど、いいもん!!

まだ他の機会で代用できるから!!

 

  

 

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