Step5: 恋人未満―――後
「付き合ってるの?」
そう問われると、彼は答えた。
「そんな関係じゃないよ」
そう。
私たちは付き合っているわけではない。
だけど、普通の友人関係でもない。
私たちは必要以上にお互いの闇を知ってしまった。
私は彼のことを知れば知るだけ、彼との関係を知りたくなった。
私が感じる私たちの関係は、
「友達以上恋人未満」
まさに、そんな言葉がぴったりのようにも思えた。
久しぶりに陽ちゃんの病室に足を運ぶと、彼女はうれしそうに私を迎えてくれた。
どうやら、今日は彼の姿はまだないらしい。
「この前はお土産をありがとう。浩から受け取ったよ」
確かにベッドの傍らには、彼女が所望したキャラクターのグッズが飾られている。
彼が彼女のために買い届けたものだ。
「で?何か進展あった?」
にやり、と笑って尋ねてくる彼女。
彼女が聞きたがっているのもまた、私と彼の関係だ。
私は軽く肩をすくめてそれに答えた。
「何もないよ〜。ただ、楽しく1日を過ごしただけ」
「え〜何も?ふたりの関係が進展することを期待してたのに・・・」
不満そうに口を尖らせる彼女に、私は苦笑するしかない。
あの日、彼とふたりで出かけたあの日は、とても楽しい1日だった。
大学か病院でしか顔を合わせることのなかった私たちは、ごく偶に喫茶店などに入ることはあったが、ふたりででかけたりなどしたことはなかった。
だから、とても新鮮だったし、楽しかった。
そうしてあの日のことを思い出していると、ふと、あることに気付く。
そういえばあの日、彼は私と話をしていても、話題はいつも彼女の話だった。
彼はいつも彼女の話をしていた。
思えば、彼が私とでかけたのも、彼女に頼まれたからだ。
その遊園地でのお土産を。
そこにはひとりでは行きづらいから私を誘った。
彼が思うことも、言うことも、考えることも、いつだって彼の双子の姉のことだけ。
後悔があるから。
罪悪感があるから。
だから、彼は彼女のために動く。
では、私は。
私の気持ちは。
私は、彼女のためだけに動いているわけではないのに・・・・・・。
それなのに、彼の頭の中は私が入る余地などないほど、彼女のことだけで埋まっているのだろうか・・・・・・。
そう考え始めると、私はひどく頭の中が冷えていくのを感じた。
彼女・・・陽ちゃんを見る自分の目がひどく冷めたものになっていくのを自覚した。
けれど、自制することができない。
「・・・由美ちゃん?」
急に黙り込み、冷めた目で陽ちゃんを見返す私に、彼女が不安そうに私の名を呼ぶ。
不安そうな目、表情。
儚い身体、命。
彼女の方が苦しくて、辛いのはわかっているのに・・・。
わかっていたのに、そのときの私は、冷静さを欠いていた。
彼が彼女のことだけを考えている。
その事実が悲しくて、苦しくて、悔しくて・・・・・・羨ましくて。
私は黙って立ちあがると、冷めた目で彼女を見下ろして低い声で言い放った。
「・・・私と彼の関係が進展しないのは、陽ちゃんがいるせいよ」
その瞬間、彼女がひどく傷ついた顔をしたのを私は見ないふりをした。
ただ黙って、その場を後にした。
彼女が私の背に呼びかけているのは聞こえたが、私は振り向くことはしなかった。
彼女を傷つけたかもしれないことは自覚していた。
頭を冷やしてから、謝りに行こうと頭の片隅で思っていた。
けれど、そのときの私は、彼との関係がわからない苛立ちと、彼女への嫉妬で醜く歪んでいた。
・・・そう、嫉妬していたのだ。
彼が彼女のことばかりを考えていることに。
だから、私は彼女にやつあたりをしてしまったのだ。
その日の夜、携帯が鳴った。
電話の相手は井上くんだった。
その用件を聞いて、目の前が暗くなった。
彼女の・・・陽ちゃんの容体が急変したというものだった。